ジェフ・ベゾスの次の野望は「アマゾン・カー」の実現だった

アマゾン・エコーで驚いてはいけない
田中 道昭 プロフィール

Amazon Goを支える3つの技術

アマゾン本社のある米シアトルに今年1月にオープンした「Amazon Go」。そのキャッチコピーは「NO LINES NO CHECKOUT」(行列ナシ、会計ナシ)である。要は無人コンビニだ。

約1年間社員限定で試験運用し、このほど一般向けにオープンしたのだが、その中味は我々の常識を凌駕する。

買い物客は自動改札機のようなゲートにスマホをかざし、アマゾンIDを認証させて入店する。あとは陳列棚から商品をピックアップして、そのまま店を出る。それだけで自動的に決裁され、スマホにレシートが送信されてくる。

Photo by Gettyimages

この技術的な仕組みについてはまだ詳細は明らかにされていない。ただし顔認証のシステムや音声AIなどの技術が利用されているのは明らかだろう。

そしてアマゾンのサイトには「コンピュータビジョン、センサーフュージョン、ディープラーニングといった技術が利用されている」と書かれている。この3つの技術を説明すれば、以下のようになる。

(1)「コンピュータビジョン」は店内のカメラを通じて顧客の顔などを認識し、どこで何をしているかを観察する。

(2)「センサーフュージョン」は顧客がどのような商品を手に取ったのかを認識するのに使われる。

(3)先の(1)(2)で集められた情報を「ディープラーニング」によってAIが顧客の行動を深層学習し、高速回転で「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Act)」という一般的な事業活動である「PDCAサイクル」を繰り返すのだ。

究極の顧客価値を提供するアマゾン・カー

アマゾンがアメリカで自動運転車に関する特許を取得したのは昨年1月のことだった。同社内には無人自動車の研究チームが存在していることも明らかとなっている。

この動きは、拡大を続けるEC事業を支えるための物流網の構築や人材不足を補うためのものとこれまで解釈され、アマゾンが自動車産業への本格的な進出を睨んでいると考える人はほとんどいなかった。

一方で無人コンビニの「Amazon Go」をはじめ、宇宙事業やドローン事業などにも進出しようとするアマゾンの目指しているものの本質とは、広範にわたる「無人システム」の構築だ。これらの事業も完全自動運転という性格を有しているのだ。

すでに物流倉庫ではロボットを走らせ、宇宙事業やドローンでも先行しているベゾス帝国が、地上においても、まずは物流から完全自動運転を実現させると考えるのは自然なことだろう。

 

次世代自動車産業が異業種戦争の様相を呈しているなかで、IT主要各社はその得意分野において覇権を握ろうと目論んでいる。

グーグルは車載OSや高精度3次元地図を他社にも開放、顧客接点を増やし、広告収入を増やすという戦法だろう。自動運転の世界において「デジタルインフラ」と呼ばれる3次元地図は、周囲の障害物の形状を把握するセンシング部品「ライダー」からのリアルタイム情報と、車の現在位置を照合し、クラウド上で車線や道路標識を忠実に再現する。3次元地図で先行しているグーグルは、またこの「インフラ」でも稼ごうとしているのだ。

秘密主義のアップルは戦略を明らかにしていないが、スマホでの実績を考えると、いずれはOSからハードとしてのクルマ、ソフトまで提供してくるだろう。OSとソフトを押さえ、ハードで収益を上げるのがアップルの常套手段だ。

アマゾンも全方位で次世代自動車に乗り込んでくる公算が高い。アマゾンの軌跡はソフトにもハードにも挑戦し続けてきた歴史である。電子ブックリーダーの「キンドル」しかり、「アマゾンエコー」しかり、アマゾンはECサイトのOS、ハード、ソフトを垂直統合させて、消費者に新しい価値を提供し続けてきたのである。そしてアマゾンは今や音声認識AIの世界ではOS部分の王者となりつつある。

顧客の経験価値を提供するには、ソフトだけではなくハードも提供することが効果的であることを、これらのデバイスで体感しているアマゾン。

完全自動運転の実用化で本当に勝負の年になると見られているのは2020年。その時、完全自動運転車の車中で、「アレクサ」に私の繰り出すようなオヤジギャグにツッコミを入れてもらいながら、買い物して、音楽や映画を楽しみ、目的地までの快適な空間を過ごす。

車載OSからハードとしてのクルマ、そして各種のソフトやサービスに至るまでの提供。一人で車中にいてもさびしくないやりとり。それを実現するのは他ならぬ「アマゾン・カー」なのかも知れない。

もちろんアマゾンがこれを本当に実現し、安全性を徹底していくためには、実証実験などハードルも高いことは事実だろう。もっとも、少しでもアマゾンと競合する企業としては、ここまでをも想定して自社の戦略を練っておくことが不可欠ではないだろうか。

最後に、先に引用した「コンピュータビジョン、センサーフュージョン、ディープラーニングといった技術が利用されている」という記載のあるアマゾンのサイトには、実はさらに「自動運転車に利用されているのと同様の技術」という但し書きがあることを付け加えておきたい。顧客の経験価値を重視するアマゾンには、安全性の徹底という最重要ポイントでも次世代自動車の先導役を期待したい。

アマゾンは全産業を飲みこみながら巨大化を続ける21世紀の怪物だ。その怪物が今まさに食指を伸ばしているのが、日本のファッション界なのである。