「動く日本列島」を体感! リニューアルした〈地質標本館〉探訪記

最新立体地図と地球のお宝を堪能する
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

草津白根火山の噴石を噴火6日後から展示

ふたたび1階に戻った第4展示室には、数億年前からの古い化石や鉱物が展示されている。

興味深いのは、歴史的な鉱物を展示するその部屋の入り口に、つい先日噴火したばかりの草津白根山の噴出物が展示されていることだ。

1月23日に噴火した草津白根火山の噴石などが、分析結果と一緒に展示されたのは、噴火6日後の1月29日だったという。どうしてそんなに迅速な展示ができるのか?


写真11 草津白根山の噴火物 ロープウェイの窓を突き破った際のガラス片がくっついている

産総研は、防災のためのネットワークである火山噴火予知連絡会の一員なので、噴火当日に研究員が現地入りしています。すぐに噴石を持ち帰り、その夜のうちには分析を行って、水蒸気爆発の可能性が高いという発表をしました。噴出物の粒子がマグマ噴火の特徴を含んでおらず、山体の構成物が8割を占めていたことから、すぐに判断できました。」

「また、現地に残った調査員が雪上の火山灰層を調査した結果、一回の噴火で概算4万トンの噴出物があったとわかり、これは気象庁の発表資料の根拠になっています」(藤原さん)


写真12 現地入りした調査員が、草津白根山の雪上に残った火山灰層を調査するようす

なるほど、単にニュースで聞くだけとは違って、実際に噴出物を目にしながら聞く情報からは、火山噴火の実態がありありと身に迫ってくる。

博物館に収蔵されているのはカビ臭い遺物ばかりと思いがちだが、地質標本館には現在進行形の展示も存在する。ちなみに、草津白根火山の噴火が起こるまで、このスペースでは新しい地質年代の名称として話題になった「チバニアン」関連の展示がなされていた。

考えてみれば、今も日本の火山は活発に噴煙を上げ、日本列島は東の太平洋プレートから年に9cmずつ押され続けている。過去の歴史を探るだけが地質研究ではないのだ。

純度80パーセント超の金! ハート型の水晶!

化石や鉱物の展示コーナーで、なんといっても目を引くのは、純度八十数パーセントという金鉱石だ。大きさは380gもあるという。

こぶし大の鉱石のほとんどを金が占めるという、信じられないほど純度の高いこの金鉱石は、宮城県・気仙沼の金山から見つかったもの。幕末から明治期にかけて発見された鉱脈は、一説には日露戦争のための戦争国債の担保に使われたともいう“曰くつき”の鉱山だ。1980年に地質標本館が開館するとき、当時の職員だった人がご尊父から譲り受けていたものを寄付したのだという。歴史の生き証人のような金鉱石なのだ。


写真13 純度80パーセント超の金鉱石

そのすぐ近くには、ハート型をしたふしぎな形の鉱物もある。透明度の高い美しい水晶だ。

これは山梨県で産出した日本式双晶とよばれるもの。いかにも人工物のように見えるが、もちろんこの形は天然のもので、水晶の産地として発展した山梨県甲府市の象徴的な存在となっている。女性に人気の出そうな一品だ。


写真14 ハート型をした水晶(日本式双晶)

「この水晶は今吉コレクションの一部で、他にも青柳コレクションといって、美しい鉱物の標本もあります。いずれも、愛好家から寄贈された鉱物たちです。鉱物は、世界中に約5200種あると言われています。そのうち、日本人の名前がついたものが約60種ありますが、ここではその半分の30種を所蔵していて、その一部を展示しています」(藤原さん)

鉱物マニアの人にとっては、とても一日では見て回れないほど盛りだくさんのコレクションだ。

ちなみに、藤原さんはかつて、化石少年だったという。

「化石の面白さを追っかけているうちに、こんな世界に入ってしまって(笑)」(藤原さん)

展示品のなかには、その昔、藤原さん自身も発掘した経験があるという、絶滅哺乳類の「デスモスチルス」の全身骨格もあった。子供のカバくらいある骨格で、カエルのようなガニ股の哺乳類が日本列島を闊歩していたようすを思い浮かべ、思わず遠すぎる先祖を想像してしまった。

まさに、本物のブツがあるからこそ、はるかな時間を超えて空想できるということだろう。


写真15 「デスモスチルス」の全身骨格 かつて化石少年だった藤原さんも発掘に成功!

地質標本館内を案内すると、みなさん必ずどこかで立ち止まって、動かなくなるんですよ。先日いらした建築関係の方は、東京の地下構造模型の前で立ち止まって、しばらくじっと見つめていらっしゃいました。みなさんそうして時間切れになって、最後は駆け足で帰っていくんです」と、苦笑いする藤原さん。

館長自らによる贅沢な解説に耳を傾けているうちに、われわれ探検隊もやはり、時間切れとなってしまった。必ず再訪することを胸に誓って、奥深い地質標本館を後にしたのだった。

取材・文:中川隆夫 取材協力: 

藤原 治(ふじわら・おさむ)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地質情報基盤センター次長(地質標本館長)

地質標本館では、地質の研究成果を享受できる社会の形成を目指して、地質の研究のワクワク感の提供と、地質情報の使い方への“ひらめき”の提供をコンセプトにしています。地質の恩恵、利用、リスクについての理解を深めるとともに、具体的な活用法や新たな応用法についても紹介していきます。研究者としては、過去に起こったプレート間巨大地震や津波を調べて、次に起こる災害を予測し、その低減を目指しています。

 

芝原暁彦(しばはら・あきひこ)

地球科学可視化技術研究所(株)つくば研究本部所長

地球科学可視化技術研究所では、「博物館」と「三次元造形(ものづくり」を合体させ、地球科学情報を直感的、かつ正確に理解できるメディアコンテンツの製作技術を研究しています。本記事で取り上げていただいた精密プロジェクションマッピングや化石のVRデータによる観察技術など、「未来の博物館」の創造を目指しています。

地質標本館(https://www.gsj.jp/Muse/

〒305-8567
茨城県つくば市東1-1-1
開館時間:9:30~16:30
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は翌平日)
入館料:無料

地質標本館のアクセスページはこちら