コメを食べて花粉症を治す!「スギ花粉米」がもうすぐ実用化

完治を目指す注目の免疫療法
堀川 晃菜 プロフィール

臨床研究の結果は?

さて、花粉症の人が最も気になるのは、実際にこの米を食べてスギ花粉症がよくなるのか、そしていつ頃どのような形で手に入る見込みがあるのか、ということかと思います。

スギ花粉症患者において有効性を検証する臨床研究は2013年に初めて実施されました。その後、2016年11月から現在にかけて(2017年春、2018年春のスギ花粉飛散期に合わせた)2期連続の臨床研究が、東京慈恵会医科大学大阪はびきの医療センターで行われています。

 

これに先駆けた動物における試験では、マウスにおいてスギ花粉に特異的なT細胞の増殖が1/2強に、IgE抗体の生産量は約1/3に低下し、免疫寛容が誘導されることが示されました。

また、安全性についてはマウスとカニクイザルで長期慢性毒性試験が、ラットで生殖・発生毒性試験と遺伝毒性試験が行われ、いずれも問題はありませんでした。さらに、花粉症でない人(健常者)でも摂取による問題がないことが確認されています。

その上で、2013年12月から花粉の飛散期にかけて5ヵ月間(20週間)実施された臨床研究では、スギ花粉症患者を対象に安全性(副作用がないか)、有効性(症状が緩和するか)が調べられました。

30人の被験者を、スギ花粉米を炊飯加工したパック米を食べるグループ、普通の米を食べるグループに半数ずつ分け、それぞれ80グラムを毎日食べてもらい、4週間(約1ヵ月)ごとに経時的な調査が行われました。

「スギ花粉米」を炊いてつくったパック米(提供:農研機構)

くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった花粉症特有の症状については、スギ花粉米を食べていたグループで鼻づまり(鼻閉症状)が軽減する傾向がみられました(「鼻閉」は鼻水が詰まっているわけではなく、鼻の粘膜が炎症を起こし、血管が拡張して腫れることで空気の通り道が塞がる状態です)。

また血液検査から免疫細胞の反応やIgE抗体の量なども調べられました。普通の米とスギ花粉米のグループを比較して、スギ花粉米を食べたグループでは、摂取後4〜8週間から花粉の飛散シーズンにかけて、T細胞の増殖が抑制されていました。しかし、IgE抗体の量には有意な差はみられませんでした。

これについて、開発者の1人である農研機構の高野誠さんは

「すでにスギ花粉症を発症している患者さんの体内にはスギ花粉に特異的なT細胞やB細胞、IgE抗体がある程度、蓄積されていることが考えられます。免疫寛容が成立するには時間がかかるので、翌年以降のシーズンに効果が表れることを期待し、2016年からは同じ被験者の方を対象に2期連続で試験を行っています」

とコメント。まさにこの春の結果に注目が集まります。

医薬品か、食品か?

「食べる薬」とも称されるスギ花粉米。医薬品になるのか、それとも食品という扱いになるのでしょうか。

高野さんは「現在の臨床研究で良好な結果が示せれば、農研機構としては素材を提供し、オープンイノベーションで実用化を目指したい」と話します。花粉症の筆者としては商品化に名乗り出る企業が現れることを願うばかりです。医薬品か食品かは最終的に企業の判断に委ねられることになりそうです。

医薬品として認可を目指す場合には、さらに臨床試験の実施が必要となるため、最低でも5年はかかることが予想されます。食品は一般的に医薬品より開発スパンが短いですが、日本では商業的な遺伝子組換え作物の栽培事例がないため、ルールづくりから始めなければなりません。

いずれにしても、商品化を実現するには、一定量のスギ花粉米の安定供給が不可欠となるため、「将来的には研究機関として供給体制の確立に尽力したい」と高野さんは話します。遺伝子組換え作物の利用という点でも、スギ花粉米は新たなページをめくることができるのか、今後の動きから目が離せません。

〈取材協力〉農研機構 生物機能利用研究部門 高野誠氏

⇒気になる農研機構の「スギ花粉米」の情報はこちら

〈参考文献〉
・「経口型アレルギーワクチン“スギ花粉米”の有効性」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/30/1/30_5/_pdf
『カラー図解 免疫学の基本がわかる事典』鈴木隆二著 西東社