あなたは、親を「安楽死」させる覚悟がありますか

「その時」は突然やってくる
佐伯 順子 プロフィール

また、「自分ではなにもできないことに気付くと、人は絶望におちる。その時人は祈り、奇跡を信じる。私もその奇跡が起きることを信じたい」(男子)と、たとえ望みは薄くても、子供として親の命の為にできるだけのことをしてあげたいという思いを、哲学的につづった意見もあり、我が意を得たりと感銘をうけた。

さらに、数値的結果として注目されたのは、賛否がジェンダーにより大きく分かれたことである。

男子学生の意見は、賛成と反対が拮抗したが(賛成51名、反対56名)、女子の場合は賛成92名、反対48名と、実に賛成が反対のほぼ2倍であった。女性のほうが優しい、という見解はいかにもステレオタイプな女性観になりかねないが、女性医師のほうが男性医師よりも患者の死亡率・再入院率が低いという調査結果(津川友介による。JAMA International Medicineオンライン版、2016年12月19日 )も存在する。

しかし、日本では男性医師の割合が高いのが実情だ。増加傾向にあるとはいえ、日本の女性医師の割合は約2割。OECD上位1、2位では7割、6割であり、日本はOECD平均45%の半分にも満たない(Health at a Glance2015, OECD indicatoes。米本倉基「我が国における女性医師の現状:諸外国との比較を踏まえて」2012年)。

男性医師の方が多いという男/女のジェンダー構造が、医師/患者の権力関係に重なり、大事な終末医療の選択にあたって、家族の意思を無視した医師の方針の強要という、ドクハラが生じてしまう危惧も、ことが患者の生死にダイレクトに関わるだけに看過できない。

 

「本人の意思」はどこにある?

終末医療のさらなる困難さ、複雑さは、同じ家族成員であっても、また、同性の兄弟、姉妹であっても、常に意見が一致するとは限らないことである。

たとえ血縁家族であっても、婚姻などで早くに実家を出て、生計や生活分離している家族成員は、実家に残って生計、生活を共にする家族成員とおのずから親との「親密性」(ギデンス『親密性の変容』)に温度差が生じ、延命治療についても意見が異なる可能性がある。

恐ろしいのは、担当医が、そうした家族成員間の「親密性」の落差を考慮せず、家族成員のうち、誰が本当に“本人の意思”なるものを代弁しているのか、家族の真実を伝えているのかを、慎重に判断せず、自分の意見と合致する家族成員の意見に一方的に同調して、患者本人の終末医療のあり方を強引に決めてしまう悲劇が生じることである。

欧米流のインフォームドコンセント(患者・家族が病状や治療について十分に理解し、合意するまでのプロセス)に懐疑的な医師もいるが、こと終末医療については、「命の尊厳」を守るため、家族の事情に疎い一見の医師ではなく、本人にとってもっとも「親密性」が高い人物の意見を最優先すべきだろう。

なにしろ、一度失われた命は二度と返らないのであるから、親が生死の境をさまよっている緊急事態に、一部家族の意見があたかも“正論”として通ってしまったり、ましてや、他人である医師が過剰に介入したりすべきでないのは当然であろう。