伊調馨が「五輪5連覇」を達成するために必要な5つのポイント

もちろん、まずは復帰が肝心だが
宮崎 俊哉

たとえるなら「技巧派投手」

伊調復帰のポイント、最後は2020年東京オリンピックを36歳で迎えることになる年齢的な衰え。これは、吉田と伊調のレスリングスタイルを比較すればわかりやすい。

吉田の最大の武器は、「タックルを制する者が、世界を制する」を信念とする父親に幼少期から鍛え抜かれた“世界ナンバー1の高速タックル”。

一方、伊調は鉄壁のディフェンスと研ぎ澄まされたオールマイティな技術力が持ち味だ。伊調が目指してきたのは「攻めるにしても、守るにしても、すべてが理にかなっている“説明のできるレスリング”」だ。

 

先述の成國氏は次のように説く。

「組み手のうまさは抜群。吉田でさえ歯が立たない。組み手で崩しながら一瞬のスキをつき、絶対にチャンスを逃さない。柔軟性が高く、股関節の柔らかさから、相手のタックルを返すことができ、失点を最小限に抑え、カウンターで攻めることができる」

野球で例えれば、吉田は「剛速球投手」、伊調は「勝ち方を知り尽くした技巧派投手」。どちらの選手寿命が長いかは、おわかりいただけるだろう。しかも、伊調は吉田より2歳年下。リオでは残念ながら銀メダルに終わったものの予選から準決勝まで快進撃を続けた吉田と同じレベルのパフォーマンスを、伊調なら2020年東京の大舞台でも期待できる。

「質がメチャメチャ高ければ、1個でもいいかもしれないけど、あれもこれもできるようにして勝つ確率を高めたほうがいい」

伊調はそう考えている。

「メチャメチャ凄い剛速球が投げられれば、それだけでバッタバッタと打者をなぎ倒し、27奪三振で完全試合ができるかもしれません。でも、どんなに速い球でもいつかは打たれる。必ず打てるバッターが現れる。だから、鋭く曲がる変化球を、できれば何種類も身につけておかなければならない。バッターのタイミングをズラす投球テクニックも必要となる。それが野球の醍醐味なら、バッターとの駆け引きも磨きたい。絶対に負けないために、ドーンとすごい武器がいっぱい欲しいんです。それが最終目標」

そして、自らのレスリング人生についてこう加えた。

「理想とする姿勢を見失わないようにしたい。反省点、課題が見つけられなくなったら、レスリング人生はおわり」

復活を果たした絶対女王が2020年東京オリンピックで前人未踏の5連覇を成し遂げ、人類の金字塔を打ち立てる可能は限りなく大きい。

現在、公益財団法人日本レスリング協会の倫理委員会は第三者委員会を立ち上げ、内閣府の調査とともに関係者への聞き取り調査を行なっている。しかし、先は見えず、長期化も懸念される。現段階では調査結果の発表を待つしかないが、一刻も早い問題解決、伊調馨選手の練習環境の整備が望まれる。2020年までの時間を考えれば、“待ったなし”だ。

また、今後は栄強化本部長のように、代表選手を抱える一大学あるいは一社会人の監督ではなく、代表選手の選考、指導にはどのチームにも属さない“フリー”の監督やコーチが付くべきだが、いまのレスリング協会にそれができるか、甚だ疑問である。

同時に、単なる「相談室」や「相談窓口」ではなく、選手が指導者や協会に対してアスリートファーストの原則に基づき、対等な立場で意見が言える選手委員会、特に女子選手委員会が名目だけの存在ではなく、実行力を持ち、協会とは一線を画する組織として活動できるようにすることが急務である。

伊調馨の肉声がここに!

宮崎俊哉(みやざき・としや)―レスリング取材歴29年。栄和人の現役時代、伊調馨の高校入学時を知る。1992年バルセロナから2016年リオデジャネイロオリンピックまで、毎回50名以上の日本代表選手を取材する傍ら、トラベルライターとして世界90数ヵ国・地域、日本全国津々浦々を駆け回る。著書に『京子! アテネへの道』(ぴあ)、『京子! いざ北京』(阪急コミュニケーションズ)、共著に『アニマル浜口の気合ダァ! 二〇〇連発‼』(ぴあ)、構成『一日一日、強くなる 伊調馨の「壁を乗り越える」言葉』(講談社)、『人間は一瞬の喜びのために、泣くんだ。』(かんき出版)、『世界最強親子、20年の軌跡 娘とだって闘え! そして抱きしめろ』(マガジンハウス)、『吉田沙保里 明日へのタックル』(集英社)など。