伊調馨が「五輪5連覇」を達成するために必要な5つのポイント

もちろん、まずは復帰が肝心だが
宮崎 俊哉

伊調復帰「5つのポイント」

伊調馨が復帰し、東京オリンピックを目指すにあたってのポイントは5つ。

まずは、栄強化本部長によるパワハラで奪われたとされる練習環境の整備。リオ五輪前、「日々進化しているいまが一番幸せです」と笑っていた伊調が、大好きなレスリングに気持ちよくうち込める練習の場と、信頼して師事できる指導者を1日も早く確保できるかどうか。

2番目は復帰へのスケジュール。伊調はかねてから「復帰のリミットは客観的に見て、オリンピックの2年前」としている。

理想としては2018年12月の全日本選手権で優勝、2019年6月の全日本選抜でも優勝して日本代表となり、その年の秋に行われるオリンピック第1次予選を兼ねた世界選手権で出場権を獲得。同時に世界の動き、どんな選手がいるのかを実際に戦って確かめる必要があるわけだが、現在、まだ本格的なトレーニングを再開していない。果たして、間に合うのか?

 

伊調本人は2018年1月のインタビューで「今年12月の全日本選手権出場ですよね。そこから逆算して体をもとに戻すには、最低3ヵ月」との判断を語った。

昨年、世界レスリング連合は階級を変更。リオで伊調が戦った58キロ級はなくなり、57キロ級へ変えなければならない。だが、もともと60キロ前後、計量は無理なくアジャストできるだろう。

同時に、試合方式と計量方法も変更されたが、どちらも伊調にとって大きな問題ではない。試合はこれまで1回戦から決勝まで1日で行われていたが、新方式では各階級それぞれ2日に分ける。アテネオリンピックまでは2日間方式だったので、ベテランの伊調は難なく対応できる。

試合両日の朝に行なわれることとなった計量も、多くの選手は慎重にならざるを得ないが、大幅な減量を必要としない伊調にはむしろ追い風となるはずだ。

伊調が所属するALSOKの大橋正教監督も、「3ヵ月での復帰」スケジュールを後押しする。

「伊調ほどの選手になれば、どこの筋肉が必要か、そこを鍛えるためにはどうすればいいかわかっているはずですし、筋肉自体もかつての刺激を覚えているのでゼロから鍛えるのとは訳が違います。少しずつ練習量を増やし、負荷を高めていけばいい。焦ってケガをすることだけは避ける。若いときと比べて、ケガからの回復は間違いなく遅くなっていますから。ホントは半年ぐらい欲しいですけど、3ヵ月でできます」

1990年と1991年の世界選手権2連覇を果たし、いまも指導を続ける成國晶子氏も「スタミナとパワーさえ復活すれば、ベテランならではの戦いで57キロ級のオリンピック・チャンピオンになれる」と断言する。

今年12月の全日本選手権、ほぼ“無風地帯”の57キロ級で優勝すれば、来年6月の全日本選抜選手権、さらには秋の世界選手権まで時間ができる。その間にリオ前のように海外遠征、国際大会出場を重ね、試合勘を磨いてオリンピックモードに仕上げていき、2020年夏にピークを持っていけばいい。

3つ目のポイントは伊調自身のモチベーション。異次元の強さを追求してきた孤高の求道者は「試合は勝った負けただけではない。反省して、修正して、レスリングを極める」としてきたが、「オリンピックだけは別」だという。

「オリンピックは恩返しの場。国内の大会や世界選手権では、勝敗はあとから勝手についてくる。それでいい。しかし、オリンピックは結果を出さないといけない」

今回の騒動で迷惑をかけた人、心配してくれた人、守ってくれた人、支えてくれた人、ともに戦ってくれた人のために、気合いは十分のはずだ。

4点目は伊調の実力

オリンピック3連覇、世界選手権と合わせた世界大会13連覇を達成し、国民栄誉賞受賞の先輩でもある吉田沙保里は、リオ五輪前に伊調の強さを素直に認めていた。

「勝負ごとですから、わかりません。私の4連覇だって、確率で言ったら80%くらいのもの。でも、カオリン(伊調馨)は違います。120%、いや200%オリンピック4連覇します」

また、最重量級でオリンピック3大会連続出場、2個の銅メダルを獲得した浜口京子も伊調の圧倒的な強さを絶賛している。

「もし、無差別級で戦ったら、一番強いのはカオリン。いままでの女子レスリングの歴史においても」

北京五輪後、練習拠点を東京に移し、出稽古中心の練習環境のなかで男子のレスリングと出会い、「レスリングの奥深さ」を知った伊調。

古代オリンピックから延々と続く男子レスリングに比べ、女子の競技の歴史はまだ半世紀にも満たない。男子と女子では圧倒的にレベルが違い、世界最強を誇る日本女子レスリングのチャンピオンといえども、男子では大学チャンピオンにすらなれない。高校のインターハイチャンピオン・クラスだと断じる者もいる。

今回のパワハラ騒動は、伊調が男子の日本代表合宿に参加したことがきっかけのひとつとされているが、そもそも男子といっしょに練習できるレベルの女子選手は伊調馨しかいないのである。