日本レスリング協会の栄和人強化本部長(至学館大教授・レスリング部監督)による、伊調馨選手(ALSOK)へのパワハラ問題。告発状が内閣府公益認定委員会へ提出されたことを週刊誌が報じると、何ら調査せぬまま、すぐさま「全面否定」したレスリング協会の対応は、納得できるものではない。
さらに、女子初となるオリンピック4連覇を達成し、国民栄誉賞を受賞した選手へのリスペクトのかけらもない、高飛車会見を開いた谷岡郁子至学館大学学長に対しても、伊調馨選手も学長が守るべき卒業生ではないのか、また、大学として、あるいは学長として独自に調査する考えはないのかと問いたい。
レスリング界が紛糾するなか、3月17・18日、群馬県高崎市で女子レスリング国別対抗団体戦ワールドカップが開催された。昨年の世界選手権で獲得した国別ポイン上位8ヵ国が出場した大会で、日本は4連覇、通算10度目の優勝を飾った。
なかでも、軽量級は抜群の強さを発揮。50キロ級、53キロ級は今大会で活躍した選手のほかに現役世界チャンピオンやリオ五輪金メダリストがひしめき、世界に類を見ない盤石の層の厚さを見せた。
2020年東京オリンピックへ向け、世界で最も過酷な代表争いが繰り広げられることは間違いない。そして、62キロ級、68キロ級には東京でオリンピック2連覇を目指す、ともに23歳伸び盛りの川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)、土性沙羅(東新住建)がいる。最重量76キロ級は、欧米や中国の選手に比べ体格で劣る日本が苦戦することはハナから覚悟の上だ。
今大会、改めて露呈した日本の弱点は、中量級の57キロ級。2選手が予選ラウンド3試合すべてテクニカルフォール勝ちしたものの、相手は格下だった。今年のアジア選手権チャンピオンとの対戦となった中国との決勝戦では、序盤4点リードしながらもテクニカルフォール負けしてしまった。
この結果は、伊調との対戦を避けるため、多くの日本選手が階級を変更してきたツケがまわってきたからだと言える。
リオ五輪前年の2015年全日本選抜選手権、伊調と同じ58キロ級に出場した選手は、わずか3名。伊調のほかは環太平洋大学から2名が出場したのみで、至学館大生、卒業生はゼロだった。
トーナメントは行えず、唯一の総当たり戦となり、伊調は2試合ともあっと言う間の10-0テクニカルフォール勝ち。もはや国内にライバルはおらず、難なく世界選手権代表、五輪代表入りを決めた。
その「急所」を突かれた形となったワールドカップ57キロ級での敗戦。レスリングファン、関係者の間では「伊調がいれば」「馨がもどってくれば」という声が一気に高まった。