無罪を訴えるも懲役3年…「揺さぶられっこ虐待事件」判決への違和感

揺さぶられっこ事件を問う⑤

2018年3月13日。

この日、大阪は3月とは思えない日差しに包まれ、汗ばむほどの陽気だった。淀屋橋のビルの谷間にある公園ではすでに早咲きの桜が満開となり、ベビーカーに子供を乗せた母親たちが思い思いの角度から青空と桜の花をバックに写真を撮っている。

そんなのどかな光景を見ながら、私は大阪地裁へと向かっていた。生まれて間もない我が子への傷害罪に問われた母親に対する、一審判決を傍聴するためだ。

「被告人を懲役3年に処す」

ここ数カ月、「揺さぶられっこ症候群」をめぐっての報道が相次いでいたせいか、大阪地裁刑事第5部704号法廷は満席だった。傍聴席の後部には複数のテレビカメラも構えている。2分間の「撮影タイム」が終わると、法廷中央の証言台の前に被告人が呼び出された。

黒いシンプルなワンピースに、ストレートの長い髪。逮捕されたその日から、一貫して無実を主張し続けてきた彼女にとって、まもなく下される裁判官の判断は重く、結果によっては、家族の今後の人生を変える深刻なものとなる。

検察側の求刑は懲役6年。我が子が負った障害は、不慮の事故によるものだと認められるのか、それとも虐待とみなされるのか……。

 

緊張感が漂う中、長瀬敬昭裁判長による判決文の読み上げが始まった。

「主文、被告人を懲役3年に処する」

一瞬、法廷にざわめきが起こった。

「この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。訴訟費用は被告人の負担とする」

執行猶予付きの有罪判決だ……。

判決理由の読み上げはさらに続いた

「被告人は平成26年12月18日午後6時頃、大阪市******の当時の被告人方において、その実子であるB(平成26年11月5日生)に対し、その身体を揺さぶるなどの方法により、同人の頭部に衝撃を与える暴行を加え、よって同人に回復見込みのない遷延性意識障害を伴う急性硬膜下血腫等の傷害を負わせた」

被告人である彼女は、今、我が身に何が起こっているのかがにわかに理解できないような表情で、判決文を読み上げる裁判長の顔を茫然とした様子で見つめている。

裁判官は、検察側が証人とした医師の意見を根拠に、母親が生後1カ月半の我が子に対し、激しく揺さぶる暴行を加えたと認定。「虐待など、絶対にしていない」という彼女の主張はことごとく却下されたのだ。

しかし、乳児虐待での有罪事件は実刑が珍しくない中、なぜ、5年の執行猶予が付いたのか。裁判官は最後に、自らが下した量刑とその理由についてこう述べた。

「被告人は騒音に対する近隣住民からの苦情を恐れながら、問題行動を繰り返す長男(*当時2歳半)と生後すぐの被害児を日中は1人で子育てしなければならない立場にあり、自身の体調もすぐれず、育児に対する不安を抱えていたことがうかがわれる。上記のような状況下で被害児が泣き止まないなどの事情から心理的に追い詰められて突発的・衝動的に本件犯行に及んだ可能性は否定できない。

本件犯行は、結果は甚大であるものの、危険性を認識しないままに突発的・衝動的に行われた犯行であり、動機経緯に酌むべき点もあるから、刑事責任は決して軽いものではないが、前科がないことをも考慮すると、基本的に刑の全部執行猶予が相当であると考えられる。そうすると、被告人が本件犯行を否認して、反省の態度を示すことはなく、自己の刑責を見つめる姿勢に欠けていることを考慮しても、主文の刑とするのが相当である」

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「裁判官がずっと架空の話をされていたので、何か不思議な感覚でした……」

閉廷後、法廷の外へ出た彼女がまず発したのはその言葉だった。

「被告人」と呼ばれる妻を法廷で見守っていた夫も、沈痛な表情を見せながら、

「科学的根拠との整合性もなければ事実との整合性もない、信じられないような判決です。妻はこれから、どうなるのでしょう……」

そう語った。