放射線科が「大学病院の影の実力者」と呼ばれる理由

覆面ドクターのないしょ話 第9回
佐々木 次郎 プロフィール

MEさん、緊急召集の連続で私生活はぼろぼろ

「心電図の調子悪いね。MEさん呼んで」


ほどなくして、若い男性がやって来た。いかにも機械オタクっぽい顔をしている。心電図の設定をあれこれいじっている。「故障みたいですね。直しておきます」と彼は言って、新しい心電図の機械を運んでくれた。

現代ビジネスの読者の皆様、MEさんと言われても、ピンとこないのではありませんか? 患者さんとはあまり接触がない職種なのです。

MEさんとは、正式には臨床工学技師(ME=Medical Engineer)といって、これもれっきとした医療業界の職種で立派な国家資格なのだ。

医者以外の医療関係者をコメディカルという。看護師さんがその筆頭で、その他に臨床検査技師、放射線科技師、理学療法師などがいて、臨床工学技師も当然この中に入る。

臨床検査技師は、病院で血液などの検査をしてくれる技師さんだ。一方、ME=臨床工学技師は、病院内の医療用機器を扱うプロだ。

 

MEさんには主に2種類ある。まず大病院で機械を担当するMEさん。もう一つは人工透析の管理をするMEさんだ。

大病院のMEさんは一般に心臓外科と一緒に働いている。私も知り合いはいるが、直接一緒に働いたことはない。

心臓外科がある病院のMEさんは忙しい。夜中に心臓外科医が、「手術するぞ」と言い出したら、人工心肺などの大がかりな機械を回さなければならない。だからMEさんも緊急招集される。心臓外科の手術は、医者だけでできる手術ではなく、MEさんたちの支えがあったればこそなのだ。

MEさんは、人命に直接影響を与える機器を扱っている(photo by istock)

知り合いに、ある若い女性のMEさんがいる。彼女はある大病院で心臓外科のMEとして働いていた。

「心臓外科って忙しいでしょう?」
「次郎先生、聞いてくださいよーっ!」

彼女は大きなため息をつき、恨みと怒りの混じった眼差しでこう言った。

「この仕事始めてから、彼氏と会えなくなって……結局別れたんです」

いきなり何の話!?

「毎年、私の誕生日に彼氏がレストランを予約してくれてたんですよ!」

彼女の話はもう止まらない。

「なのに、なのに……毎回緊急手術の連絡が入って、私が彼氏を置いて病院に駆けつけるんですよ。ドクターってひどくないですか!」

いや、私に怒らないで。

「彼に『俺と手術とどっちが大事なんだ?』って訊かれて……ねぇ、ちょっと先生、聞いてます!?」

すみません、遠くを見てました。

「『どっちが大事?』って普通、女が男に言うセリフじゃないですか?」

そりゃそうだ。普通は彼女が彼氏に噛みついて言うものだ。

「私と仕事とどっちが大事なのよ!」と。「それは仕事だよ」と言ったら角が立つし、「それは君だよ」と言っても収拾がつかず、結局、石田純一先生の知恵にすがるしかない。

MEさんには2種類あると言ったが、2種類目のMEさんは、腎臓病の人工透析の機械を管理するMEさんである(現場では単に『技師さん』と呼ばれている)。実際、MEさんと言ったら圧倒的に人工透析に携わるこのタイプだ。こちらの方が患者さんと接する機会が多い。

前述の心臓外科の女性MEさんだが、あまりの忙しさに「私の人生、このまま終わるのは悲しすぎる」と言って、透析室に異動させてもらったらしい。やはり心臓外科は激務だったようだ。

平穏な日々を取り戻した女性MEさんは新しい出会いを求めて合コンに行った。

「病院で働いてます」
と言ったら、男性陣が色めきたったらしい。

「か、看護師さんなんですか!?」
「いいえ。でも白衣は着てます」
「あ~、放射線技師さんですか?」
「いいえ」
「わかった、採血する技師さんですね?」
「…………」

なかなかわかってもらえない。

「『透析の仕事してます』って言ってもダメでした。それで……」

透析そのものがイメージしにくいのか?

「それで、どうなったの?」
「もう面倒くさくなって、『採血する技師みたいなもんです』って言って帰ってきました」