放射線科が「大学病院の影の実力者」と呼ばれる理由

覆面ドクターのないしょ話 第9回
佐々木 次郎 プロフィール

真実を解き明かす病理診断科医

病院の影の実力者、いや実力科はもう一つある。

それは病理診断科(病理科)である。

手術で切除した腫瘍の診断だけでなく、完全に取り切れているか、悪性度の強弱、リンパ節転移などを専門医が詳しく調べてくれる。病理科は単なる検査科ではなく、その意見は治療方針に大きな影響を及ぼす。手術中、病理科と次のようなやり取りになる。

「病理の黒田だ。佐々木君、顕微鏡下ではマージン・プラスだ(切除縁陽性=がん細胞が残っている)。このままだと局所再発するぞ」

「わかりました。今から拡大手術に変更します!」

また病理科では病理解剖を行う。病院内で亡くなった患者さんの解剖をし、その死因を解明するのである。入院病名が死因でないこともあり、われわれは大変勉強させてもらっている。

病理科は切除組織をミクロのレベルで見ているので、彼らが下す診断は医学的な真実となる。だから外科系の医者は、放射線科以上に病理科の先生には全く頭が上がらないのである。

 

病理科の黒田部長も歯に衣着せず、ずけずけと物を言う先生だった。

病院の外科部長に中学生の息子さんがいた。夏休みの宿題は「お父さんの職場見学」。その息子さん、かなりユニークで、内科・外科・手術室などはドラマで見飽きているので、変わった科を見てみたいという。

「うーん……おまえ、顕微鏡好きか?」
「好き!」
「じゃ、病理科にするか?」

医療ドラマのブームにより、病理診断科医も脚光を浴びている(photo by istock)

病理科を見学に来る中学生など皆無だから、黒田部長は大喜び。大きなバケツの中から色々な肉塊を取り出し、『男はつらいよ』の寅さんのようにテンポよく説明した。

「寄って寄って、学生さん! 今朝ゼク(病理解剖)で取れたばかりの胃袋だ! 新鮮だよ!」

今朝取れたばかりって、築地市場じゃあるまいし……。

「これとこれが肝腎かなめの肝臓と腎臓、こっちが大腸だ。そういえば、君、ホルモン好きか?」

あれれ? 中学生の顔が真っ青。彼は貧血を起こし、ベッド上でしばし休憩。復活した後、お父さんに伴われて、実習再開。次に黒田部長が顕微鏡で色々な臓器のミクロの世界を見せてくれた。黒田部長曰く。

「君、ここにあるのが真実だ。君のお父さんもそうだけど、臨床医って、患者の前では口先ばっかりで、みんな大嘘つきだぞ!」

「お父さんが……大嘘つき……」

慌てて外科部長が首をつっこむ。

「あのぅ、黒田部長、うちの息子の前でそこまで言わなくても……医者やってると色々あるじゃないですか……」