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裁判中に居眠りし「帰りたい」とゴネる車椅子アウト老(アウトロー)

没落した発明家が最後に作ったものは?

車椅子の被告人の裁判は「何かある」

この日の静岡県伊豆の国市は雨が降ったり止んだりを繰り返し、スッキリしない天気が夜まで続いていた。伊豆箱根鉄道沿線脇の住宅街に住む女性は仕事上がり、近所のスーパーで弁当を買い帰宅したところ、隣の家の前に、白い軽トラックが停められているのを見つける。

隣家が炎に包まれたのはそれから数時間後のことだった。

古い木造の一軒家が全焼するのに時間はかからなかった。消防活動も追いつかない中、火の粉を上げ轟々と燃える家からパジャマ姿で逃げ出して来たのは、ここに住む会社経営者・吉田浩(仮名・当時75)と、同居していた元妻。二階に寝ていた46歳の長男が逃げ遅れて死亡した。

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『伊豆の国市放火殺人事件』と呼ばれる事件を起こした“白い軽トラックの男”は、2015年6月21日の夕食どき、ガソリン入りのペットボトルや段ボールなどで自作した『時限発火装置』をこの家の風呂場脇に置いた。時間差で火が上るようにし、自身のアリバイを証明しようと企んだのである。だがそんな偽装工作も虚しく、3ヵ月後に逮捕されてしまう。兼子満義、当時72歳だった。

一般的に「高齢者による犯罪」と聞いて思い浮かべるのは、経済的に追い詰められた末の万引き、長年の介護による疲れからの殺人など、〝やむにやまれぬ〟事情から起こした犯罪だろう。だが、それは高齢者犯罪の一側面でしかない。

驚くほどに身勝手な理由や思い込みから、凶悪犯罪に手を染める高齢者や、自身の不遇を憂いて他者を巻き込み暴発する高齢者たちがいるのだ。私はそんな高齢の凶悪犯罪者たちを『アウト老(ロー)』と勝手に命名し、彼らの裁判を傍聴してきた。

兼子の裁判員裁判は2017年6月、静岡地裁沼津支部で開かれた。初公判の日、法廷奥のドアから現れた兼子はなんと車椅子。

車椅子の被告人の裁判は『何かある』。これは長年の傍聴経験から感覚的に得た、私の持論だ。

車椅子にも驚いたが、それに乗っている兼子を見てまた驚いた。体はまるで即身仏のように骨と皮状態で青いジャージはぶかぶか、膝にパステルカラーの毛布をかけている。口は半開きで肌は真っ白。白髪頭もほとんど禿げ上がり、すでに半分あの世に足を突っ込んでいるかのような風情なのである。

ちゃんとした受け答えができるのか、被告人質問で話ができるのだろうかという心配がよぎる。案の定、名や居住地などを問われる『人定質問』の時からすでに何を言っているのか聞き取れなかった。

 

裁判長「お名前は?」

兼子「兼子……(名前が聞こえない)」

裁判長「生年月日は?」

兼子「昭和18年……(そのあとが聞こえない)」

傍聴席の最前列で聞いていてもこの有様。ますます被告人質問で話ができるのかと心配になった。