虐待や障害で親が手放した子供に差し伸べられる「救いの手」

育てられない母親たち【17】
石井 光太 プロフィール

母親に対する支援が切れてしまう

特別養子は、赤ん坊の健全な養育という面では、非常に有意義な方法だ。だが、母親にとってはどうだろうか。

母親は妊娠していたり、子供を手元においていたりしている間は、充実した福祉サービスを受けることができる。保健士が家庭訪問してくれるし、生活保護も比較的簡単に受給できる。養育困難者を支援する団体も数多くある。逆に言えば、赤ん坊を特別養子に出してしまうと、そこで母親に対する支援が切れてしまうことがあるのだ。

 

先述の高橋は言う。

「日本では、養育困難な親の支援は母子保健として保健士が行います。日本の児童相談所は職員の数が少なく、親の養育が困難と判断して『分離』してしまうと、母親に対する支援が切れてしまうことが多い。イギリスでは、ソーシャルワーカーの数が多く、家庭復帰の支援にも力を入れているので、たとえ『分離』となっても継続的に母親の支援ができる。そこがちがうところです」

また、分離のプロセスにもちがいはあるらしい。

アメリカやイギリスでは、虐待事案があった場合は、司法が介入して、分離する前に一度、親に「ペアレント・プログラム」(養育プログラム)を受けさせるケースもある。司法の命令なので強制力がある。親がそれを受けても虐待をつづければ、そこではじめて分離させて里親に出すことになる。

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一方、日本では、行政がすべてを判断する。行政が深刻な虐待があったと判断したら、その場で分離をしてしまう。自治体によっては「ペアレント・プログラム」を用意しているが、司法が介入しないので受講させる強制力はない。そのため、親にしてみれば、いきなり分離させられ、支援も途切れてしまうことになる。

「日本は欧米に比べれば、養育支援に弱さがあるかなと思います。個人的には、親が子供の養育に困った際は、きちんと司法が入ってプログラムを受けさせた上で、本当に子育てができないのかどうかを見極める必要があります。

その上で、特別養子の制度を整えて、必要であればそういう選択をする。そういう方法を目指すのがいいのではないでしょうか。そしてきちんと母親への支援も継続して行うべきだと思います」

こうしてみていくと、日本における母子保健はまだまだ発展途上だと考えずにいられない。

養育困難な親は少なからずいる。子供を特別養子縁組によって救うことも大切だが、親の支援も欠かせない。

それを別々に行うのではなく、一つにしていくことが重要であることはまちがいないだろう。

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