虐待や障害で親が手放した子供に差し伸べられる「救いの手」

育てられない母親たち【17】
石井 光太 プロフィール

日本は欧米に比べると…

佐藤晴美は、乳児院から子供を養子にもらったことがある。彼女は自身の体験を通して次のように語る。

「乳児院の職員は一生懸命やっていますが、やはり家庭とは大きくちがいます。たとえば、乳児院では食事は決まった時間にカートに乗せられて配られます。いい匂いがしたと思ったら、数分後には栄養満点の食事をもらえる。その点、家庭はちがいますよね。お母さんが料理をはじめて、いい匂いが漂ってきても、料理ができ上るまでさらに何十分か待たなければならない。だから、子供は待つことを学びます。

 

でも、乳児院の子はちがうんです。いい匂いがしたらすぐにご飯を食べられなければ我慢できない。誰かが口に運んでくれなければパニックになる。まさにうちの子がそうでした。乳児院から来たばかりの頃、いい匂いがしてもすぐにご飯が食べられないので、パニックになって暴れて、そのまま倒れたんです。

乳児院ならテーブルの角にはやわらかいゴムがついていたりしますが、うちは家なのでそんなものはついていません。それで肩を激しくうちつけて骨を折る大怪我をしました。

このように、乳児院で育った子供は、家にいれば普通につく常識を持っていないんです。ドラム式の洗濯機を見たことがないので中に入って閉じ込められてしまう。煙草を見たことがないので食べようとしてしまう。病気の大人を見たことだってありません。乳児院の職員は風邪を引いたら休みますからね。

そういう子供が、そのまま成長したらどうでしょうか。これが、乳児院で育つことの問題なのです」

ここからわかるのは、親が子供を育てられないからといって、引き離して施設に入れれば済むわけではないということだ。

特に幼い子供については、家庭と同じ環境が健全な生育のためには不可欠だ。だからこそ、実親のもとで暮らすことができない場合は、特別養子縁組という形で、親の代わりとなる人によって育ててもらった方がいいとされているのだ。

この特別養子縁組を、日本全体に広めていこうと取り組んでいるのが、日本財団の「ハッピーゆりかごプロジェクト」だ。このプロジェクトでは、国内の特別養子縁組を斡旋する民間事業者に呼びかけ、普及活動をしている。

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事業の担当者である高橋恵里子は語る。

特別養子縁組の制度は、子供の将来を考えれば非常に重要なものです。国連のガイドラインにも、実親のもとで子供が暮らせない場合は、養子縁組や里親制度によって別の家庭で育てられるのがふさわしいと書かれている。特に三歳になるまでは育ての親が必要なのです。でも、日本は欧米に比べると、特別養子縁組の普及が進んでいなかった。これをなんとかできないかと思ってはじめたのが、このプロジェクトだったのです」

ハッピーゆりかごプロジェクトには、先述のBabyぽけっとも加わっている。これまでバラバラに動いていた事業者をまとめ、特別養子縁組をより広めていこうとしているのだ。
 
では、実際にどのような形で、特別養子縁組が行われているのか。特別養子縁組を支援する「ベアホープ」の取り組みを見てみたい。