やっぱり不思議、なぜ生物は進化するのか?

子どもに聞かれたら答えられますか?
更科 功 プロフィール

進化のメカニズムは4つしかない

確かに、ハーディ・ヴァインベルグの定理が言っていることは、当たり前かもしれない。遺伝子頻度から遺伝子型頻度を予測するときなどには便利かもしれないが、それを別にすれば「特別なことがなければ、ハーディ・ヴァインベルグ平衡が成り立つ」と言っているだけなのだから。でも、ハーディ・ヴァインベルグ平衡とは、何を意味しているのだろうか。

 

実は、「ハーディ・ヴァインベルグ平衡が成り立つ」とは、「進化しない」ということだ。進化とは「遺伝する形質が世代を超えて変化すること」だ。トレーニングによって発達させた筋肉は、子供に遺伝しない。だから、トレーニングによる筋力アップは進化ではない。

一方、遺伝子は遺伝する。だから「世代を超えて遺伝子の頻度も遺伝子型の頻度も変わらない状態」つまり「ハーディ・ヴァインベルグ平衡」は、「遺伝する形質が世代を超えて変化しない状態」だ。つまり、ハーディ・ヴァインベルグ平衡が成り立っていれば、生物は進化しないのである。逆に考えれば、生物が進化するのは、ハーディ・ヴァインベルグ平衡が成り立たないときなのだ。

では、ハーディ・ヴァインベルグ平衡はどういうときに、成り立つのだろうか。さっき血液型の話をしたときは、人数が100人の集団を考えた。でも、本当は100人では足りない。たしかに確率通りにいけば、次の世代では100人のうちの64人がA型になる。でも実際には65人かもしれないし、62人かもしれない。たいてい少しはズレてしまうのだ。

このように、偶然によって遺伝子頻度がズレることを遺伝的浮動という。遺伝的浮動をなくして、確率通りにするための方法は、1つしかない。それは、集団を無限大にすることだ。したがって、集団を無限大にすることは、ハーディ・ヴァインベルグ平衡を成り立たせるための条件の1つだ。

実は、ハーディ・ヴァインベルグ平衡が成り立つためには、下記の4つの条件が必要である。

  • (1)集団の大きさが無限大であること。
  • (2)対立遺伝子の間に生存率や繁殖率の差がないこと。
  • (3)集団に個体の移入や移出がないこと。
  • (4)突然変異が起こらないこと。

この4つの条件が1つでも満たされなければ、ハーディ・ヴァインベルグ平衡は成立しない。つまり、生物は進化する。逆にいえば、この4つの条件を破るメカニズムが、そのまま進化のメカニズムになるのである。

したがって、進化のメカニズムは4つしかないことになる。(1)の条件を破る遺伝的浮動と(2)の条件を破る自然選択と(3)の条件を破る遺伝子交流と(4)の条件を破る突然変異である。意外と進化のメカニズムって少ないのだ。進化には色々なメカニズムがあるように思えるが、みんなこの4つに含まれてしまうのだ。

でも、この4つの条件をすべて満たすのは、なかなか大変だ。というか、そもそも(1)の条件を満たすことは不可能だ。集団の大きさは必ず有限なのだから。

したがって、最初に紹介した「なぜ生物は進化するの?」という質問への答えは、「4つの条件をすべて満たすことは出来ないから」である。たとえば「生物の数は有限だから」だけでも、「なぜ生物は進化するの?」の答えになっているのである。

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