典型的ベッドタウン・町田が今「多摩の渋谷」と呼ばれる本当の理由

賑わう中心街の裏側では…
現代ビジネス編集部 プロフィール

近郊の団地がつくる、閉じられた生活圏

町田中心街の近郊にある団地でも、興味深い話が聞けた。

町田駅の数キロ北西、バスで15分ほどのところに、高度成長期に建設されたマンモス団地が広がる。旧日本住宅公団(現・UR都市機構)の「町田山崎団地」と、東京都住宅供給公社の「町田木曽団地」だ。

UR都市機構の「町田山崎団地」UR都市機構の「町田山崎団地」。団地の一部ではマンションへの建て替えも行われている
町田山崎団地の高齢者上と同じ「町田山崎団地」内にて。交通の便の悪い団地の常で、高齢者の姿が目立つ

鉄道駅からの便が悪い団地の宿命で、少子高齢化の進展とともに人口が減っている。山崎団地の中心部では、団地の開発当初から発展を支えてきた「正和幼稚園」がいまも保育を続けているが、園児のほとんどは、町田の中心街である原町田エリアなどから送迎バスを利用して通う子たちだ。

 

団地内の公園で子どもを遊ばせていたお母さんたちが、取材に応じてくれた。

団地内はご高齢の方々と、子育てファミリーの割合が7対3くらいでしょうか。子育てといっても、子どもが高校・大学に入る年齢になると、周辺に戸建て住宅を購入して出ていかれる方が多く、50〜60代がほとんど住んでいないんです」

「そんなわけで、高齢の方々は通院などを除くと、ほとんど遠出されてませんね。そう言う私たちのような子育て世代の女性も、団地内に図書館や郵便局、行政機関の出張所、スーパーまで揃っているので、団地を出る機会は少ないです。町田駅前は賑わってますが、私たちは特に用事がないし、そもそもムダな買い物をする余裕もありませんから」

また、買い物帰りの子連れの女性が、こんなことを教えてくれた。

「山崎団地はUR都市機構の運営なので、お隣りの(住宅公社の)木曽団地より、家賃が1〜2万円高いんです。近所のご高齢の方々から、少しでも家賃の安い木曽団地に引っ越したいという愚痴をときどき聞きます。木曽の向こうにある境川団地も同じ(住宅公社の管理)で、町田駅にはあちらのほうが近いのですが、駅周辺とは生活水準がぜんぜん違うので、分断されている感じがしますね」

UR都市機構の賃貸住宅UR都市機構の賃貸住宅。東京都住宅公社は(同じ広さに対して)この相場より1〜2万円安いという
「町田山崎団地」内の公園団地内の公園で遊ぶ子どもたち。中心街より安全・安心な子育てが可能、という親は確実にいる

「東の渋谷」と「西の渋谷」の違い

山崎団地のショッピングセンターの片隅に立つ古びたおもちゃ屋。懐かしい「酢いか」の串をくわえた子どもたちが、傍らでたむろっていた。

レジに立つ女性に話を聞くと、団地で45年続いたおもちゃ屋が6年前に閉店してしまったため、残った商品を引き取り、駄菓子の仕入れと販売で多少の運営費を補てんしつつ、ボランティアで営業を続けているのだという。

「減ってはいるものの、子どもたちはまだまだこの団地にいるので、必要としてくれる限り、何とか続けていきたいと思っています。ただ、息子がこのショッピングセンターで飲食店を経営しているのですが、ここ数年で急に店を閉める仲間が増えたと嘆いています。景気が良くなると、消費を煽る中心街に商売を取られてしまう面もあるんでしょうか」

「私自身はクルマで10分ほど行ったところにある家から通っています。月曜の定休日以外は毎日ここに来ないといけないので、ごくたまに必要があって買い物に出かける以外、町田駅まではほとんど行かなくなりましたね。団地も自宅も、町田の中心からこんなに近いんですが、ただ近いだけ、なんですよね」

夕暮れのショッピングセンター夕暮れのショッピングセンター。近年、閉店する店が急速に増えているという
おもちゃ屋「グリーンハウス」ショッピングセンター内のおもちゃ屋「グリーンハウス」。取材のあいだも子どもたちが次々やって来た

町田の中心街には人があふれ返っている。町田に限らず、リーマン・ショック後に比べれば、週末に遠出してレジャーや買い物を楽しむ人たちはだいぶ増えたようで、何かしら集客力のある街には人が殺到している感がある。外国人観光客の増加も、その賑わいを底上げしている。

ただ、そうした賑わいに吸い寄せられる層と、それとは価値観の重ならない層あるいは生活水準が重ならない層のあいだにある「ミゾ」は、より深くなっているのではないか。とりわけ、(景気回復前に子どもを産んだ)収入の伸びない30〜40代の子育てファミリーと、年金暮らしの高齢者たちは、賑わう市街とはまったく異なる生活空間をその周縁に形成しつつある

東の本家「渋谷」が仕事や消費を求める人たちを引き寄せ、都市圏を拡大していった経緯と比べると、「西の渋谷」「多摩の渋谷」は、必ずしもひとつながりの生活圏として拡大繁栄しているわけではない。そんな東西の「渋谷」の違いが、今後の発展にも何らかの形で影響してくるのか、気になるところだ。