「なぜうちの商品は売れないのか」と悩む前に磨くべき、ひとつのこと

哲学をビジネスに効かせる方法
小川 仁志 プロフィール

理性では太刀打ちできない問題

それは、自分の理性だけでは太刀打ちできない問題が多く生じてきている点です。

その証拠に、世の中では感情やモノ、テクノロジー、共同の力が幅を利かせています

政治を見ればわかるように、世界にはポピュリズムが徘徊し、今や理性よりも感情でリーダーを選ぶ時代です。人々の熱狂が過激なリーダーを選択しているのです。

モノというのはあまりピンとこないかもしれませんが、科学の進歩のおかげで、もはやかなりのことが人間の理性を超えたところで決められ、動いていることがわかってきています。

物質のエネルギーもそうですし、自然環境もそう、そして私たち自身の体の中でさえも、臓器同士が脳を介さずに勝手に変化を起こしているというのです。思弁的転回と呼ばれる最新の哲学がそれを理論的に裏付けつつあります。

テクノロジーはいうまでもないでしょう。IoTやAIをはじめ、人間の知らないところで、人間の能力を超えて活躍を始める科学。私たちには理解できないようなことも、コンピューターは理解し、解決してくれるのかもしれません。

共同の力は個人の力の集合のように見えて、それとはまた異なるものです。なぜなら、自分一人でコントロールできるものではないからです。

しかし、今や皆で力を合わせないと回らなくなってしまっていることがたくさんあります。とりわけ経済のパイが縮小する中、シェアリング・エコノミーのようなものが台頭してきているのはその証左といっていいでしょう。

こうした状況は、たしかに私たち個人個人の理性を脅かす現象にほかなりません。一人の人間の理性が相対的に弱体化していることを意味するのですから。

とはいえ、指をくわえて傍観しているわけにはいきません。私たちがすべきなのは、むしろピンチをチャンスに変え、こうした知を活かす方法を考えることなのではないでしょうか。

理性をアップグレードする

そこで私が提案しているのが、拙著『哲学の最新キーワードを読む』(講談社現代新書)で紹介した「多項知」という発想なのです。

この概念にはいくつかの意味が込められています。まず数学の多項式をイメージしています。感情の知、モノの知、テクノロジーの知、共同の知という一つひとつの新しい知が、あたかも数学の多項式の一つの項のように働き、それらが組み合わさることで解が出るということです。

個人の理性だけでは足りない分、他の項の知をつなぎ合わせることで、知のネットワークを形成し、アップグレードを図るわけです。

 

この場合アップグレードされるのは、自分の理性ということになります。あくまでメインプレーヤーは人間であり、個人であり、私自身であるはずですから。

さらにこの多項知という概念には、近代ドイツの哲学者・ヘーゲルの著名な二つの概念を超えるものとしての意味も込められています。

そのうちの一つは「狡知」です。ヘーゲルは「理性の狡知」というような使い方をしています。つまり、歴史は理性の狡知に導かれ、個々人の意図や利己的活動にもかかわらず、きちんと発展していくというように。

この世界には、理性の狡知ともいうべき目に見えない大きな理性、大きな力が働いていると考えるのです。私の多項知も、その意味では「多狡知」ということになるのかもしれません。複数の狡知が働くことで、この世がうまくまわっていくということです。

ヘーゲルの場合、世界精神という神のような大きな力を想定しており、それが理性の狡知を働かせるというのです。

しかし、私の提案はそうした神秘的なものではなく、むしろ現実の問題として、多項知を構成する個々の知が狡知として働き、全体として解を導き出すというものです。ヘーゲルがそれによって歴史の発展を説いた点は私も同じです。