法の正義より政治家への「忖度」を重んじる、おかしな最高裁

人事と予算がやっぱり大事ですか
岩瀬 達哉

しかしなぜ、最高裁は、誰の目にも明らかな「3.08倍」の格差を「合憲」としたのか。

この疑問に答えて、ある元最高裁判事はこう言った。

「政治家というのは、選挙の問題と切っても切れない仕事なんです。『投票価値の平等』のために、選挙区の議員定数をこれ以上削られれば、自分の首が飛ぶことになる。だから、いろんな差し金を使って最高裁に圧力をかけてくるわけです。

ひとつには、予算の問題があると思いますよ。予算のことでは、内々に、しょっちゅう政府とやり取りしてますから。

それと人事でしょうね。最高裁長官は、内閣の指名にもとづいて天皇が任命すると憲法に書かれている。ということは、内閣の指名が必要なわけです。最高裁判事にしても、内閣によって任命されるわけですから、いずれの人事権も、内閣が握っている。

安倍晋三首相は、すでに戦後3位の長期政権ですから、最高裁も政権の意向を忖度せざるをえないということでしょう」

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政権とは対立しない

昨年度の裁判所予算は3177億円で、国家予算の0.3%だった。このうち84%が裁判官と一般職員の人件費で占められ、残りで全国の裁判所と簡易裁判所を運営している。

そのため、概算要求の際、他省庁のように他の支出項目を膨らまし、予算に余裕を生み出すことができない。元最高裁長官の矢口洪一も、かつてたった1000万円削られただけでも、全体に響いて困ったことになると語っていた。

人事にしても、政権の意向に逆らったのは、過去一度だけだ。田中角栄内閣が、法務省事務次官だった津田実を最高裁判事に任命しようとしたとき、最高裁はその人事案にクレームをつけ、最高裁が推す人物と交代させている。

この時、最高裁長官だった石田和外には内閣と刺し違えるかのような迫力があったという。逆に言えば、それほど強烈なエゴと覚悟がなければ、内閣の人事案を撥ね返すことはできないということだ。

 

前出の元最高裁判事は、さらにこう付け加えた。

「最高裁には、統治機構の一部であるという意識が根強い。だから国会や他の省庁、とりわけ検察庁とは一緒になって国民を統治していこうという思いがある。また、政権の意向は忖度しても、対立はしないという風土もあります」

結局のところ、最高裁は「権力の番人」ではなく、権力の側に身を置く官僚組織ということになる。

今後、自らを変革し、「法の正義」を率先しない限り、遠くない将来、国民の道義的信頼を失うことになるだろう。

岩瀬達哉(いわせ・たつや)
55年、和歌山県生まれ。'04年『年金大崩壊』『年金の悲劇』で講談社ノンフィクション賞を受賞した。その他著書多数

「週刊現代」2018年3月31日号より