法の正義より政治家への「忖度」を重んじる、おかしな最高裁

人事と予算がやっぱり大事ですか
岩瀬 達哉

政治家からの圧力

裁判官出身で弁護士の森野俊彦もまた、泉の考えに賛同する一人だ。森野は、2010年3月、「一票の格差訴訟」で福岡高裁裁判長として「違憲」判決を言い渡した。

「国会議員は、正当に選挙されて初めて議員になるわけですから、自分の存立基盤である選挙区について、できる限り『一人一票』の実現を志向すべきなんです。

そのための努力を国会がしたかどうかを審理し、その努力が認められなかったので、良心に従って違憲とした」

この時の訴訟では、大阪高裁、広島高裁、名古屋高裁でも「違憲」判決が下された。しかし最終的に最高裁は、「憲法の規定に違反するものとは言えない」として「違憲状態」としたのである。

森野は、この判決を聞いた時の心境を、大きなため息とともに述懐した。

「なぜ、ここまで最高裁が立法府の怠慢をかばう必要があるのかというのが第一印象でした。国会と馴れ合っているとしか思えなかったですね。これでは最高裁は権力の番人として、立法府をチェックできるわけがないと、失望した」

 

もっとも、最高裁もかつて「違憲」判決を出したことがあった。国会が、格差是正の努力をしていないとして、当時の寺田治郎最高裁長官が激怒したときだ。

1985年の大法廷判決で「違憲」としたうえで、寺田長官のほか各小法廷から一人ずつ判事が加わった4人で、選挙を無効とする判決も書けないわけではないという主旨の「補足意見」を書いていた。これ以上、是正努力を怠ると、選挙無効の判決を書くと圧力をかけたのだ。

この効果は大きく、徐々に格差は是正されてきた。ところが昨年9月、「3.08倍」の格差のもと実施された参議院選挙への訴訟で、最高裁は「合憲」の判断を下したのである。

これまで積み上げてきた是正努力を、一気に突き崩し、後退させる判断だった。

「この判決は残念でした」と呟いたのち、前出の泉は熱弁を振るった。

「『一人一票』を実現するのは、そんなに簡単じゃない。だから『2倍未満』だったら、まあ、いいかという気持ちはありました。その実現も近いなあと思っていたら、まったく想像もしていなかった合憲判断が出た。

これで今後、国会は是正に向けて動かなくなるでしょう。現状維持でいいとの『お墨付き』を与えたわけですから」