法の正義より政治家への「忖度」を重んじる、おかしな最高裁

人事と予算がやっぱり大事ですか
岩瀬 達哉

「先例」に縛られる

最高裁の司法行政部門である「調査官室」は、最高裁事務総長と同格とされる「首席調査官」のもと、3名の上席調査官と三十数名の調査官で組織されている。

彼らの主な仕事は、膨大な上告審を審理する判事のために、最高裁判決の文案を起案したり、重要な判決の判例解説を執筆することにある。

福田は語っている。

「上席調査官と担当調査官が頭が固いと、どうしようもない。自分だけが頭いいと思っている。だから私は言った。『どうしてもそういうことが書きたかったら、最高裁の判事になってから書きたまえ』と」

 

自身、調査官を務めたことのある元裁判官は、「調査官につきまとうふたつの問題」をこう解説した。

「調査官も裁判官なので、自分の法律論をもっているわけですよ。ですから、最高裁判事の議論に法律家として参加しようとする。

しかし最高裁判事から見れば、格下の調査官から意見されるのは面白くない。これが軋轢を生むひとつの原因です。

もうひとつは、調査官には現状維持、先例尊重という意識がある。とりわけ、法律専門家でない官僚出身の判事の意見は無視しがちで、これまで通り手堅く行こうとする傾向がありますね」

「一票の格差」訴訟で、最高裁が「先例」として引き継いでいるのが、1964年2月の大法廷判決への「補足意見」だ。この判決と「補足意見」は、最初の「一票の格差訴訟」で出されたものである。

「4.09倍」の格差のもと実施された参議院選挙に対し、最高裁は「合憲」の判断を下しているが、その判決の主旨を補う「補足意見」を最高裁判事だった斎藤朔郎が書いている。

斎藤は、その中で「政治的紛争から完全に離れること、政治的決定に際しての政治的勢力の衝突の渦中に身を投じないことが必要である」「司法審査の範囲を拡大するよりも、『司法権の効果的な実行に内在する本来的な限界』を守っていくことの方が、むしろ肝要」と述べている。

Photo by iStock

要するに、国会に立ち向かって無視されたら、裁判所の権威がなくなる。裁判所は、行政や立法の問題については積極的に関与すべきでない、としたのである。

品格を重んじる最高裁の中にあって、とりわけ温厚な人柄で知られた元最高裁判事の泉徳治は、その在任中、「一票の格差訴訟」では3度にわたって「反対意見」を書き、「違憲」を主張してきた。

静かな口調ながら毅然たる態度で、泉はこう言った。

「最高裁が、行政の分野や立法の分野に、何でもかんでも口出ししていいわけではありません。国会や行政官庁が、法律の容認する裁量権を大幅に逸脱して、社会に混乱を招いた時に乗り出すだけでいい。

しかし、国民の基本的人権や、民主主義のシステムの根幹をなす選挙制度の改善については積極的な姿勢が必要です。とりわけ『投票価値の不平等』の是正には、常に裁判所は一歩前に出なくちゃならない。

いま、憲法改正が、現実的な課題になってきているだけに、その必要性は増しているのです」

「投票価値の不平等」が是正されないままでは、憲法改正の論議にしても、国民の意思を公平に反映できないからだ。