格安航空「ピーチとバニラの統合」が、驚くほど合理的である理由

結局、ANAの一人勝ち…?
加谷 珪一 プロフィール

ピーチとバニラは路線の重複がない

現状ではジェットスターとピーチの売上高は拮抗した状態にある。ピーチは関西空港を拠点とする航空会社であり、首都圏では羽田に発着枠を持つ。一方、バニラの拠点は成田なので、両社には路線の重複がほとんどなく、統合後の新会社はバニラの分がそのまま上乗せされる可能性が高い(下図)。

ジェットスターの国内線旅客総数は462万人、国際線は58万人と圧倒的に国内線が多い。一方のピーチは国内線が324万人、国際線は189万人。バニラは国内線が107万人、国際線が106万人である。

単純にピーチとバニラを足し合わせると、国内線が431万人、国際線が295万人となり、総旅客数でトップに立つのはもちろんのこと、ジェットスターに及ばなかった国内線でもほぼ拮抗することになる。

JALはジェットスターに資本参加しているが、ANAほどLCCには力を入れてこなかった。LCCの市場拡大に伴ってJALがLCCに本腰を入れる可能性も高まっているが、これに対してANAが先手を打った格好だ。

一般論として、航空会社が顧客を囲い込むことは重要だが、LCCの場合、最大のセールスポイントは価格であって、顧客のロイヤリティではない。経営規模が圧倒的に大きくなれば、スケールメリットも出てくるが、市場規模がそれほど大きくない場合、単純な数字の足し合わせによる効果は限定的となる。

この統合がうまくいくためには、コストが過大にならないことが何よりも重要となる。航空会社のコストや収益力を分析する上で重要なカギを握っているのが「イールド」と「ユニットコスト」である。

 

LCC各社を比較すると…

イールドは旅客1人に対する1キロメートルあたりの収益を示している。この数字が大きければ、高い価格で航空券を販売できていることになり全体の売上高の増加につながる。

ユニットコストは航空業界ではCASK(Cost per Available Seat Kilo)と呼ばれているもので、1つの座席を1キロメートル運ぶために必要なコストを示している。ユニットコストが低いほど、そのエアラインは利益を出しやすい体質であることが分かる。

航空会社の利益を最大化するためには、イールドを出来るだけ引き上げ、ユニットコストを下げればよい。だがLCCは、運賃が安いことを武器にしたビジネスであり、イールドを上げようと運賃を高めに設定すると、旅客数が減少してしまう。このあたりのバランスをどう取るのかが経営者の腕の見せどころだ。

下図はLCC各社のユニットコストと平均輸送距離の関係を示したグラフである(参考値としてJAL、ANA、デルタ、アメリカン、エアアジアのデータも記載した)。輸送距離が長くなるに従って、コストが緩やかに下がっているが、これは全世界共通の傾向で、航空業界では一般的なものといってよい。

ジェットスター、ピーチ、バニラの中で国際線の比率が高いのはバニラである。このためバニラは他社に比べて平均輸送距離が長くなっており、直近の決算ではユニットコストがもっとも低い。ジェットスターとピーチは、ほぼ同じ水準のユニットコストとなっている。春秋は成長途上なのでまだコストが高く採算が合うレベルではない。

統合後の新会社(2017年3月期の業績を足し合わせたもの)のユニットコストは6.3円とピーチ単体よりも下がる。これはバニラのユニットコストが低かったことの影響と考えられる。

バニラは、長距離路線が多いことや、ANAから手厚い支援を受けてきたことでコストを低減できていた可能性が高い(バニラはANAの完全子会社)。コスト面では優位性があったものの、航空券の販売を最大化できずイールドが伸び悩み、業績が低迷していた。

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