画/おおさわゆう

これが白い巨塔か…大学病院の医者は全員「階級社会」に苦しんでいる

覆面ドクターのないしょ話 第8回
治療の難しい病気や大ケガをすれば、専門医を多く抱える大学病院のお世話になる可能性が高い。最後の「頼みの綱」ともいうべき存在なのだが、その実態は、ばかばかしい慣習がまかり通る旧日本軍に比肩する階級社会なのだ。そのなかでお調子者の次郎先生はどうやって生き延びてきたのだろうか。

主任教授に権力が集中する「ピラミッド」

『白い巨塔』(山崎豊子著)は、大学病院の実態を生々しく描いた作品だ。ドラマ化もされ、過去には田宮次郎、村上弘明が演じ、唐沢敏明主演のドラマが記憶に新しいのではなかろうか?

教授を頂点にした大学病院のシステムは「軍隊式」とか「封建的」などと表現される。

大学病院(正確には病院ではなく、大学)の医局とは、立法・行政・司法の三権が教授の手中にある「権力集中制」なのだ。やはり教授は恐ろしい。

大学病院の人事構成は、下から助教(昔の助手)、講師、准教授(昔の助教授)、教授となる。

かつては「無給助手」という給料がもらえない助手(!)が当たり前だった。私も「無給助手」を経験したが、彼らの人海戦術で大学病院は支えられていたのである。経験を積むと「有給助手」になり、出世すると順に講師→准教授になる。

会社にたとえるなら、教授は「取締役」に相当する。取締役が複数いるように教授も複数いる。平の取締役(平取)は定員外教授という。教授に値する実績と経験があるが、すでにポストが埋まっている場合に与えられるポストである。相撲の張出横綱みたいなものだ。

 

「代表取締役社長」は主任教授、英語で言うとチーフ・プロフェッサーである。この主任教授に権力が集中しているのである。いまだに大学病院=「白い巨塔」なのかと問われれば、私はイエスと答えざるを得ない。

ドラマの『白い巨塔』では、「財前教授の総回診です」というお触れが回ってから、財前教授を筆頭に医療スタッフが勢ぞろいした大名行列のような行進が病棟を進んでいく。30年ほど前までは全国一律にごく普通の光景だった。私の過ごした医局もほぼ似たようなものだった。

絶対権力者・主任教授に逆らったら、医師の明日はない

教授回診は医局員にとって一週間のうちの一大イベントである。

教授回診の準備はその2、3日前から始まる。血液データ、レントゲン、その他の検査結果はそろっているのか、細かくチェックする。

特に外科では、手術した患者さんの術前・術後の画像検査結果(レントゲン・CTなど)は必ず用意しなければならない。教授回診の前日の午後に画像検査の不備が判明すると、大慌てで検査を行う。

普通のレントゲンはいつでも簡単に撮れるからよい。だが、教授が「用意しておきなさい」と言ったCTを撮り忘れていたりすると大騒ぎになる。

昔は現在のように簡単にCTを撮れる時代ではなかった。予約外で撮影するには放射線科に頭を下げて頼み込まなければならなかった。

「すみません、どうしても今日中に必要なので、CTを撮ってもらえませんか?」

放射線科の先生に平身低頭して懇願する。

「僕はいいけど、技師さんたちに無理言うわけだから、そこんとこ、よろしくね」

次に技師長室に行って頭を下げる。

「よろしくお願いします……あのう、これ、コーヒーです。皆さんで飲んでください」

差し入れも忘れずに。

ある日のこと、いつも(?)のようにCTの撮り忘れが発覚した。ところが、その日の放射線科の責任者は、何度頭を下げても許してくれない怖い女医さんだった。

「あんたたちさぁ、これ、緊急性あるの?」

「はい!緊急性あります!」

「知ってるわよ。どうせ教授回診でしょ?」

「ゲッ!」

「そんなのダメよ」

この女医さん、人形のように可愛い顔をしてるのに、実は有名な性悪女医だった。

余談だが、この女医さんには伝説的逸話がある。夫の両親が日曜日に訪ねて来ることになっていた。

ピンポン。

「あら、お父様、お母様、約束の時間より30分も早いですね。約束の時間まで待っててください」と言ってドアを閉め、舅・姑を室外で待たせたという。

話は戻るが、結局、性悪女医の上司の先生に土下座して謝ってCTを撮ってもらった。もちろんコーヒーの差し入れも忘れずに。