フィギュアスケート世界選手権「女子シングルの抱える闇」

身体能力がすべて、でいいのか
青嶋 ひろの プロフィール

成長期をどう乗り切るか

そうでなくとも、女子シングルという種目の厳しさは、フィギュアスケートのなかでも抜きんでている。まず競技人口が飛びぬけて多いため、競争率の高さが半端ではない。ある日本の男子選手は「娘が生まれても、絶対フィギュアスケートはさせない」と言ったことがある。

「男子なら、多少の力があれば全日本選手権くらいまでは行けます。でも女子の競争率は10倍以上。オリンピックや国際試合はおろか、全日本だって夢のまた夢、なんですよ」

加えてほとんどの女子選手が、成長期の体型変化に苦しむ。背が伸び、少し女性らしい体つきになっただけで、それまで跳べていたジャンプがすべて失われる選手も多い。ある日本のチームの夏合宿では、女子選手にだけアイス禁止令が出るという。

 

ロシア選手は、アイスショーの楽屋でふるまわれるお菓子も、コーチからの命令で絶対に手を付けてはいけない。それを守った選手は後々、オリンピック選手になれた、コーチの見ていないすきに食べていた選手は太ってしまい、オリンピックに出られなかった、というエピソードもある。

うまく成長期を乗りきった選手、たとえば日本の坂本花織などに聞いても、「私のジャンプは、背が伸びる前、3年くらい前が一番良かった。その頃の試合の映像を見ると、自分でも驚くほど大きなジャンプを跳んでいます」と言うほど。

17歳でも、すでに「ピークを過ぎた身体」で戦わなければならないのだ。無理やり身体の成長を押さえつけたり、過度のダイエットをしたりで、生理が止まる選手も珍しくはない。

坂本花織選手

そんな過酷な世界で生き永らえ、若くして頂点に立ったザギトワ、メドベージェワ。ここで10代の少女たちが燃え尽きてしまうのも、仕方がないのだろうか。過去の五輪チャンピオンを見ても、16歳のリレハンメル五輪チャンピオン、オクサナ・バイウル、15歳で長野五輪を制したタラ・リピンスキー、16歳でソルトレイクシティ五輪金メダリストとなったサラ・ヒューズ。

いずれもあと2回はオリンピックに出られる年齢でありながら、五輪優勝がキャリアの頂点、2度目の五輪を迎えることなく終わってしまった。

そんな歴史を振り返るに、やはり次の五輪では、荒川静香やクリスティ・ヤマグチのように、様々なものを乗り越えた大人の女性がチャンピオンになるところを見たいな、と思う。

アスリートとして若い選手に敵わなくとも、豊かな感情表現、より深い音楽や物語の表現を、年齢を重ねてきた選手たちならば見せられるからだ。そして、身体能力だけを競うのではなく、芸術性でも競うのがフィギュアスケートというスポーツだからだ。

15歳、18歳の現在でも、ここまでのスケートが見せられるザキトワとメドベージェワ。彼女たちが大きな問題なく4年間を過ごせたら、北京五輪ではどれだけ美しくなることか。しかしこれからは、女子選手たちもトリプルアクセルや4回転に挑む時代になる、と言われている。そんな時代を勝ち抜くのは、年齢が上の選手ほど困難になっていくだろう。

国や指導者たちは、もしかしたら時代に適応した新しい世代を育てることに躍起になるのかもしれない。しかしザギトワやメドベージェワ、彼女たちが滑り続けることを望むならば、北京に向けて万全のサポート体制が彼女たちに用意されることを願いたい。