フィギュアスケート世界選手権「女子シングルの抱える闇」

身体能力がすべて、でいいのか
青嶋 ひろの プロフィール

続々と登場する才能あるロシアの女子たち

もちろん15歳で優勝したアリーナ・ザギトワも、若さの勢いだけで勝った選手ではない。強さ、笑顔、余裕、そのすべてが平昌の彼女にはあった。

その身体が美しく動くことをよく知っている自信、正確無比な音の取り方、年齢からはちょっと考えられない艶やかさ、見るものを恍惚とさせるパフォーマンス……。オリンピックで初めて彼女を見た人にも、「さすがチャンピオンは違う」と思わせる力があっただろう。

ロシアのアリーナ・ザギトワ選手

現世界チャンピオン、15‐16シーズンから無敵を誇り、最も五輪チャンピオンにふさわしい選手だったエフゲニア・メドベージェワも、複雑な心情を複雑なステップで表現し、見入ってしまうほど演劇的なプログラムを滑りきった。

 

しかしプログラム構成点や各要素への出来栄え加点でザギトワを上回りながらも、ジャンプの難度や構成で後輩の後塵を拝してしまう。その彼女でさえ、まだ18歳。この若さで、もう技術で一番に立てなくなってしまったメドベージェワの姿は、女子シングルの残酷さの象徴、そのものだった。

ロシアのエフゲニア・メドベージェワ選手

4年後、メドベージェワは22歳、ザギトワに至っては、まだ10代の19歳。これから先ももちろん、ふたりの華やかな戦いが見られるはず、なのだが――。4年後、北京五輪、彼女たちは再びオリンピックの舞台に立っているだろうか? 

ソチ五輪では団体戦金メダリストのユリア・リプニツカヤ、個人戦金メダリストのアデリナ・ソトニコワ。やはり当時17歳と15歳のロシア女子が旋風を巻き起こしたが、リプニツカヤは既に引退、ソトニコワはソチ五輪後ほとんど国際試合に出ることなく、ふたりとも平昌代表に選ばれることはなかった。

実はロシア女子のこの世代には、恐ろしいほどの実力を持ちながら五輪に届かなかった選手が山のようにいる。2015年世界チャンピオンのエリザベータ・タクタミシェワ(21歳)、2015年世界選手権3位のエレーナ・ラジオノワ(19歳)、2016年世界選手権3位のアンナ・ポゴリラヤ(19歳)。ジュニアで頭角を現したころは、絶対に将来の五輪メダリスト候補、と言われた選手たちばかりだ。

彼女たち3人とソトニコワ、リプニツカヤ、誰ひとりとして平昌五輪に出場できなくなるなど、とても想像できなかったのだ。しかし次々にケガをし、続々と出てくる若い選手たちに追い抜かれ、この場に立てなかったたくさんのロシアの花たち――。

ザギトワやメドベージェワは、競技力のピークがちょうどオリンピックシーズンに合い、実力をいかんなく発揮して栄光を掴むことができた。しかしメダリストとなった今後、モチベーションを保っていけるのか。あるいは全力を尽くしたとしても、自分たちと同じように急激に伸びてくる若い選手たちと戦えるのか……。

昨年12月のジュニアグランプリファイナルでは、女子のファイナリスト6人中5人がロシア選手という、異様なまでの強さをこの国は誇っている。さらに若く、さらに技術力の高い世代がシニアに上がれば、ザギトワもメドベージェワもあっというまにエースの座を追われる、とすでに予想されているほどだ。

才能のある、魅力的な選手が次々に登場するロシア女子。しかし彼女たちがあまりにも次々と、あまりにも若くして疲弊してしまっていることが、とても気にかかる。ここまで短命の選手ばかりで、ロシアはほんとうに女子シングルの大国と言えるのだろうか。国の栄光さえ掴めれば、ひとりひとりの選手は使い捨てでも構わない、そんな空気はないのだろうか。