「伊調馨さんは選手なんですか?」衝撃会見で露呈したパワハラの構造

無意識レベルでハラスメントする人々
原田 隆之 プロフィール

また、リオ五輪の際に、ほかの選手がビジネスクラスを使ったのに、伊調選手がエコノミークラスだったことについても、「本人がそれでいいと言った」と弁解していたが、これもひたすら上からの目線であり、下にいる選手の心情を何も斟酌(しんしゃく)していないことが如実に表れている。

弱い立場の者は、言いたくても言えないことがある。「私はそれでいいです」としか言えなかった事情があるのかもしれない。

いくら五輪で何連覇もしている大選手であっても、出身大学の学長であり、レスリング協会の副会長である人の前では、言いたくても言えないこともあるかもしれないということが、この人は何一つわかっていない。

そこには、自分は彼女のことをよく知っている、いちいち彼女の立場や言葉の裏にある気持ちなど斟酌しなくてもよい、という甘えがあったのではないだろうか。

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だからパワハラが生まれる…

相撲協会の件といい、今回のレスリング協会の件といい、上の立場にいて権力を持っている者が、揃いもそろって時代遅れの考え方で、人権意識が希薄で、想像力や共感性に乏しいような組織では、起こるべくしてパワハラが起きる。

そして、いつもきまって「パワハラとは思っていなかった」と弁解する。

彼らは「自分は正しい」という信念に凝り固まっているため、この先も彼らが変わることは難しいだろうと悲観的な気持ちになる。

だとすれば、弱い立場にいる者たちが、声を上げやすい組織、環境を堅持することが何より大切だろう。そして、声を上げた者を非難したり、貶めたりすることは、断じて許されない。

その意味でも、今回の会見は醜悪だった。

 

伊調選手は間違いなく「国の宝」であるし、東京でのオリンピックでも金メダルを見たいのは誰もが望むところだろう。今回の件でも、「オリンピック5連覇に黄色信号」などと危惧する声が上がっている。

しかしその前に、五輪を目指そうが目指すまいが、一人の人間として、その人権や幸福を、誰であっても侵害してはならないのは当たり前のことだ。

彼女は、著書のなかで、「勝ちたいとか、負けたらどうしようとか思うことがない。だって、私はレスリングが好きでやっているんですから」と述べている。

選手であろうがなかろうか、五輪を目指そうが目指すまいが、それは本人の自由である。

私は、伊調選手のこれまでの偉業に敬意を込めて、本人が望むのならば、彼女には好きなレスリングを好きなだけ続けてほしいと思うし、一刻も早くそうなれることを祈っている。