「伊調馨さんは選手なんですか?」衝撃会見で露呈したパワハラの構造

無意識レベルでハラスメントする人々
原田 隆之 プロフィール

被害者を悪者にする記者会見

こうした流れを受けての谷岡学長の会見であったわけだが、終始一貫していたのは、「今回の騒動で迷惑している」という怒りだった。

メディアの取材攻勢や、苦情の電話、メール、さらには嫌がらせ行為などで、レスリング部の学生の練習に支障が出ているということを、怒りも露わに述べていた。

もちろん、何の罪もない学生にまで、嫌がらせ行為が及んでいるのだとすれば、それは断じて許されない行為である。

最近は、社会の耳目を集める事件や問題が生じると、ゆがんだ「正義感」を振りかざして、匿名でいわれのない非難や中傷を繰り返すという卑劣な行為が多いことは、本当に嘆かわしい。

 

大学の学長として、学生を守ろうとする姿勢は共感できるし、それは当たり前の姿勢だと思う。

しかし、それはそれとして、この会見で大きな違和感があったのは、ハラスメント被害者の可能性のある伊調選手に対して、思いやりの姿勢がまったく感じられなかったことだ。

特に批判が集まっているのは、伊調選手が東京五輪での5連覇を目指すことを明言していないことを指して、もはや選手であるとは認めないというような趣旨の発言をしたことだ。

〔PHOTO〕gettyimages

そこには、アスリートへの敬意のかけらもない。この発言自体が、ハラスメントであると言っても過言ではないだろう。

その一方で、栄氏に対しては、その体調を気遣いながら、「彼がハラスメントなどをするはずがない」と述べるなど、終始擁護の姿勢が一貫していた。

ここではっきりしておくべきことは、現段階ではハラスメントの告発があったというだけであり、関係者のヒアリングが進んではいるが、黒白がはっきりついたわけではない。

したがって、栄氏の立場も十分に守られなければならないのは当然である。

とはいえ、栄氏側の言い分だけに与して、被害者とされている伊調選手の言い分も聞かず、まだヒアリングや調査が終わっていない段階で、端から「ハラスメントなどあるはずがない」と決め受け、一方的な態度に終始する姿は、中立性を欠いているだけでなく、異様であった。

この点が、冒頭に述べた「デジャブ」の大きな原因だ。

相撲協会の暴力事件でも、加害者である横綱など、強い立場の者の主張にだけ歩み寄り、弱者である被害者の主張を一顧だにしないばかりか、「被害者側の態度に問題があった」などと、被害者に責任転嫁しようとする態度に大きな批判が集まったのだった。