シマジ: ピートというのは石炭になる手前のものですから、硬くて大変でしたでしょう。
栗生: はい。大変でした。まずはトンカチで砕いてから火をつけてみたんですが、ぜんぜんつかない。ならばと、キッチンにあったおろし金でゴリゴリやってみたら、あっという間におろし金の方がダメになっちゃいました。
それで今度は金属用のヤスリでおろしてみたら、いい感じに細かいピートの粉が出来たんです。でもその粉に火をつけても、やっぱりすぐ消えちゃうんですね。そこで燻製用のスモークウッドというものがあるんですが、その上に粉を盛って火をつけてみたら、やっと上手くついてくれたんです。
シマジ: へえ~、人知れずそんな苦労があったんですか。ボブ、われわれはもっと大事に噛み締めながら、タリスカースパイシーハイボールを飲まなければ罰が当たるよ。
ボブ: まったくですね。栗生社長の探求心がなければ、スパイシーハイボールはこの世に誕生していなかったかもしれません。
栗生: そこから、インド産の黒胡椒にピートの香りをのせるためには、どれくらいの温度で、どれくらいの時間燻製すればいいのかという研究が、はじまりました。
ヒノ: まさに職人根性ですね。
栗生: まず50度で8時間燻製して、一旦取り出して全部シャッフルして、また入れ直して8時間燻製するんです。
シマジ: へえ、合計16時間も燻製しているんですか。それにしては値段が安いんじゃないですか。
栗生: やっぱりそうですかね。値上げしちゃおうかな(笑)。
シマジ: その苦労して完成した「黒胡椒の燻製」を、ある日、坂本がわたしのところに持ち込んできたんです。ためしに一杯、タリスカーでハイボールを作って飲んだ瞬間、わたしは「坂本、このスパイシーハイボールは美味いよ。これはイケるぞ」と叫びました。
それが「タリスカースパイシーハイボール」と命名され、伊勢丹サロン・ド・シマジでオープン当初から売られることになったんです。
ヒノ: しかもこのプッシュミルで挽くと、粒の大きさがまちまちになって口のなかのアタックがちがってくるのがいいですよね。
シマジ: あれは坂本のアイデアだったかな。よくあるグランダー式のマシンでやると、粒が均一になって、この独特のアタックが出ないんだよ。
ボブ: それにタリスカー全体に言えることですが、もともとかすかに黒胡椒のニュアンスがありますから、そこをブーストしたというのが正解だったんでしょうね。
シマジ: いまではほかのバーやレストランでも、タリスカースパイシーハイボールは大人気のドリンクになっています。
栗生: おかげさまで、いつも伊勢丹さんから「黒胡椒の燻製」の大量注文が入ります(笑)。
シマジ: いまサロン・ド・シマジでは1パイントのタリスカースパイシーハイボールが大人気でよく売れています。
ヒノ: で、おいくらなんですか。けっこうお高いんじゃないですか?
シマジ: いやいや、一杯800円の普通サイズのタリスカースパイシーハイボール3杯分の容量で、2000円です。ですから400円ほどお得なんですよ。
立木: ボブ、おれにも一杯タリスカースパイシーハイボールを作ってくれる。研究熱心な栗生社長の苦心談を聞いていたら、飲みたくなってきちゃったよ。
シマジ: ボブ、わたしにもおかわりをください。
ヒノ: ついでにぼくもお願いします。
ボブ: 承知しました。
〈⇒後編につづく〉