米朝会談に向けた不気味な沈黙が暗示する「北の内部抗争」

金正恩の「命がけの勝負」はどう転ぶか
李 英和 プロフィール

本気だからこその「3つの理由」

それでも奇妙な沈黙を守るのは何故か。考えられる理由は3つある。どれも核放棄の「本気度」を前提としたものだ。

第1の理由は、南北首脳会談の開催待ち。

核放棄で下手に論評すれば、トランプがへそを曲げて首脳会談がご破算になる。そうなれば、南北首脳会談の開催も危うくなる。

南北首脳会談では、北朝鮮の核放棄は主要な議題にはならない。非核化論議は適当なところで脇に置き、南北の和解と交流の雰囲気、つまり「同民族フェロモン」を十分に醸し出した上で、アメリカとの非核化交渉に臨む――。

これが得策との情勢判断だ。したがって、4月開催予定の南北首脳会談までは沈黙を決め込む、との観測もある。

だが、いたずらに公式表明を引き延ばせば、5月末開催予定の米朝首脳会談の実務協議に支障をきたす。

 

飛び出すか?「連邦制」構想

第2の理由は、国内向けの立場の整理。

金正恩は非核化を「先代の遺訓」と文大統領に伝えた。だが、非核化が金日成の遺訓なら、核武装は金正日の遺訓だ。

2つの遺訓が相反しようが、外部の人間には関心がない。さらに言えば、大多数の北朝鮮国民も同じ。庶民は核放棄による制裁解除で生活が楽になるので歓迎。ヤミ金融業者から成り上がった新興富裕層も商機が拡大するので大歓迎だ。

だが、労働党や人民軍の幹部層は事情が異なる。

核開発の遺訓によって、大飢饉で国民の10人に1人ともされる犠牲者を出し、生き延びた国民は経済制裁による生活苦にあえぐ。当然、方向転換をしたうえで独裁体制を続けるには言い訳が要る。金正恩はその大義名分を得るのに苦心している。

筆者の予測では、相矛盾する遺訓を止揚して総合するのに別の遺訓を持ち出す可能性が高い。1民族・1国家・2制度・2政府の奇策、「南北連邦制統一」(高麗連邦共和国構想)がそれだ。

総論賛成、各論反対が渦巻く夢物語だが、金正恩の北朝鮮にいま必要なのは「夢」である。非核化も核保有も、この夢を叶える手段という理屈立てだ。

ただし、この金日成の遺訓は40年近く前に作られたものだ。長い分断の歳月が生んだ南北の異質感と韓国若者の南北統一への無関心が最大の泣き所だ。より洗練された現代版への更新作業が不可欠である。