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クイズです。「ブラック企業」のトップがよく使う言葉はどっちだ?

「人工知能」が人と企業の傾向を見抜く

メディアや知識人が垂れ流すウソにダマされないための「先見力(=未来を予測する力)」を養う。そんな講義や公開講座を行なっているのが、筑波大学の掛谷英紀准教授だ。

中でも力を入れているのが、先見力のある人が書いたものと先見力のない人が書いたものを、「自然言語処理」という手法で人工知能に機械学習させて分析するという研究。この過程で、企業トップや政治家の言葉遣いに関する、面白い傾向がわかったという。

リーマン・ショックにも揺らがなかった企業の特徴

いきなりですが、はじめにクイズを出題します。みなさん少し考えてみてください。

【問題】次のリストは、リーマン・ショックで株価が大きく下がった小売業の上場企業のトップ(社長・CEO)がよく使う言葉と株価があまり下がらなかった企業のトップがよく使う言葉をまとめたものです。
AとBのどちらが、株価があまり下がらなかった企業のリストでしょうか?

2008年のリーマン・ショックは世界経済に大打撃を与え、多くの日本企業の業績も悪化して日経平均の株価は大暴落しました。しかし、この金融危機の中で、あまり株価を下げなかった安定企業も存在します。

そんな「安定企業」と「不安定企業」の違いは、トップの言葉に現れているでしょうか?

 

それを分析したのが上記のリスト。上場している小売業のうち、就任から2年以上経過している経営トップが自社のホームページで公開しているメッセージを収集・分析したものです。(収集時期は2008年9月から10月)

収集した144社について、2006年7月31日と2008年7月31日の株価の変化率を算出し、大きく下落したグループとそうでないグループを72社ずつに分け、それぞれのグループの経営トップのメッセージを機械学習して得た特徴を表にしています。

この分析は、私たちの研究チームが自然言語処理を用いて行ったものです。自然言語処理とは、人間が普段使っている自然言語をコンピュータに処理させる技術で、私は将来を見通す先見力のある人が書いたものと先見力のない人が書いたものを、人工知能による機械学習で分析するなどの研究をしています。

今年2月、その成果を『「先見力」の授業 AI時代を勝ち抜く頭の使い方』にまとめて出版する機会を得ました。

この情報過多の時代に「先見力」をつけるために一番大事なのは、「事例研究」です。世の中でこれまで起きてきた事例をできるだけたくさん知り、そういった知識が蓄えられていれば、種々のメソッドやルールが、それぞれどういう場面で活きるか見えるようになってきます。

そして、人間の頭では到底処理できない膨大な事例のデータを収集して特徴を割り出すことができるのが機械学習なのです。

分析結果から経済と企業の特徴が見えてくる

さて、クイズの答えですが、分かりましたでしょうか? 答えは、“Aがあまり株価を下げなかった企業のリスト”です。

「スーパーマーケット」という言葉がありますが、これは経営トップが自社の事業形態について言及しているものです。経済に詳しい人ならご存じのとおり、スーパーマーケットは不況に強い業種です。景気が悪いから、スーパーで買い物しないというわけにはいきません。逆に外食産業などが影響を受けることになります。

ほかにも、なかなか興味深い特徴が見られます。

安定企業は「安全」「安心」を重視し、地域「密着」、社会「貢献」、お客様に「支持」され「愛される」企業になることを「モットー」としている。どういう企業群なのか、それだけでイメージが掴みやすいと思います。

一方、不安定企業は、「独自」の「ブランド」を「展開」し、お客様への「サービス」で「喜び」「感動」「満足」を与えることを「テーマ」としている。こちらも、どういう企業群なのかイメージしやすいでしょう。流行を追いながら積極展開をする企業は、景気に左右されやすいのです。

なお、この結果は、あくまでその企業が安定か不安定かの違いに注目したもので、優良企業か否かの判断材料にはなりません。実際、2つの企業群について、その後の株価の推移を追ってみたところ、グループ間に差は見られませんでした。あくまで、リーマン・ショックのような外乱に対する耐性を見たものであると解釈してください。