「武蔵小杉がいま熱い!」と騒ぐ人たちがまったく気づいていないコト

タワーマンションは目を引くけれど…
現代ビジネス編集部 プロフィール

「タワマン住民とは生活圏が違う」

通行者に話を聞いているうち、タワマン入居者とそれ以外の地元住民のあいだには、けっこうな距離があることがわかってきた。駅南西に伸びる「法政通り商店街」の老舗店主が語る。

法政通り商店街武蔵小杉駅から南西に走る「法政通り商店街」。週末は多くの人で賑わう

「タワマンなど再開発事業を推進する側も、当初は地元との調和を図ろうと、努力していました。地元商店街の各店舗に個別にデザインされたスタンプを持たせ、いっぽうでタワマン入居者にスタンプカードを配り、商店街で買い物をしてスタンプがたまると特典が得られる。タワマン入居者がどの店でどのくらい買い物をしたか、調査するのが狙いでした」

「結果はさんざんなもの。30個ほどでいっぱいになるカードですが、多い人でも5、6個。ウチの店なんか、2年の調査期間中、一度もスタンプを押しませんでした(笑)。結局、タワマン住民とは生活圏が全然違うんですよね

 

また、同じ商店街の居酒屋店主はこう指摘する。

「タワマンが建ち始めてから10年ほど過ぎ、タワマンに住んでいるという常連さんとはほとんど出会えていません。あえて口にしないだけかもしれませんが。にもかかわらず、土日にこの古い商店街にやたらと人が歩くようになったのが驚きです」

「ウチも女性二人とか若いお客さんが増えたので、ときどき話を聞いてみるんです。何で武蔵小杉に来たの、と。たいていの答えは、おしゃれな買い物の街だと聞いて遊びにきたけれども、駅直結の商業施設の中は都内にもあるお店ばかりだったので、ぶらぶら歩いてみたらいい感じの商店街あるじゃん! ということで飲みに来てるんですよね。他の商店主からも同じような話をよく聞きます」

武蔵小杉駅の構内は、平日の昼間から人出が多い。駅直結の商業施設もすでに述べたように、おしゃれな女性が目立つ。ただ、駅周辺ではそれと同じくらい、自転車で移動する人たちの姿を多く見かける。前出のイトーヨーカドー武蔵小杉駅前店もかなり混んでいる。駅から離れたところに住んでいる人がかなり多いことの証左だろう。

法政通り商店街の出口にある飲食店の女性店主が、こんなふうに説明してくれた。

「ウチの客は、この商店街より駅から離れた住宅街に住んでいる人たちがほとんど。ここ数年、低層マンションの新築や、既存マンションのリノベーションが増えているようで、最近引っ越してきたというお客さんがよく来てくれます。お子さんを連れてくるお父さん、お母さんも多いですね」

「子育てという面では、保育園が全然足りてないんだけれど、東京と横浜のどちらにもそれなりに近くて、タワーマンション以外は家賃もそんなに高くないので、『通勤、子育て、どちらもそこそこ便利』というのが理由で引っ越してくる人が多い感じがします。武蔵小杉だけにしぼって部屋を探した、という話はあんまり聞きません」

武蔵小杉の低層マンション写真左のような低層マンションも徐々に増えている(法政通り商店街付近)

タワマン「以外の」住民が増えた

ほかにも駅そばの古い飲み屋街「センターロード」などで話を聞いてみたが、タワマンが増えて街が変わった、という話より「横須賀線の武蔵小杉駅ができて東京に出るのが便利になった」「昔は一面畑だった場所にまで(低層)マンションや建売住宅が進出していて、街を歩いている人が増えた」という感想が多かった。

センターロード昭和の名残りを感じる居酒屋が残るセンターロード。タバコ屋そばの喫煙所には都内並みに人が集まる

ひと言で言うなら、武蔵小杉という街の「空気」は、現時点では真っ二つに割れていて、メディアが増幅する高層ビル立ち並ぶ近未来都市のイメージは、駅をわずか数分でも離れるとまったく当てはまらない。商店街で花屋を長年営む男性が言う。

「ミゾは間違いなくあるさ。生活レベルが全然違うんだもの。でも、街が注目されたおかげで、土日の観光客が増えたことは事実だから、感謝しないとね。タワマンの人たちは独自に祭りやイベントを企画してやってるんだけど、そのせいで商店街が廃れたわけでもない。地元のお祭りは相変わらず盛況で、近年はむしろ参加者が増えたと感じるくらい。タワマンはタワマン、でいいんじゃないのかな」

タワーマンション新築による住民の増加はもちろん無視できないが、武蔵小杉という街の拡大と繁栄は、むしろ周辺の住民が増えたことのほうが重要なのでは、という気がしてくる。