「キムタクは何を演じてもキムタク」はとんでもない誤解だ

その繊細な演技に気づいていますか
太田 省一 プロフィール

実は、先ほど引用した彼の発言は『ロングバケーション』の思い出を語ったものである。

『ロングバケーション』は、「キムタク」現象を巻き起こしただけでなく、俳優・木村拓哉がいま述べてきたような自らの演技スタイルを確立したドラマでもあった。

そしてその演技スタイルは、その2年前に放送された『若者のすべて』(フジテレビ系)ですでに開花しつつあった。

だからこそ、それぞれの作品で共演した山口智子と萩原聖人が同じレストランに居合わせることになる第7話の緊張感あふれる場面は、とりわけ感慨深いものでもあった。

 

“弱さ”を受け入れることが真の強さに通じる

さて、井上由美子が1990年代に脚本を担当したもうひとつの木村拓哉出演ドラマがある。1998年放送の『織田信長 天下を取ったバカ』(TBSテレビ系)である。

天下統一を目指す前の若き日の信長に木村拓哉が扮した作品で、当時時代劇初挑戦ということでも話題になった。

その後、彼はたびたび武士役を演じてきた。2006年公開の映画『武士の一分』や2014年放送の『宮本武蔵』(テレビ朝日系)などを覚えている方も多いだろう。また昨年公開の映画『無限の住人』も記憶に新しい。

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かつて剣道少年だった木村拓哉が見せる殺陣の見事さが印象的な一方で、彼が演じるそれらの武士役には共通点がある。それは、組織の歯車にならず、自立して生きようとする人物だということである。

やはり井上由美子脚本による時代劇『忠臣蔵1/47』(フジテレビ系、2001年)で木村拓哉が演じるのも、そんなタイプの武士だ。

彼が演じたのは赤穂浪士のひとり堀部安兵衛。浅野家の再興を優先する大石内蔵助(佐藤浩市)に対し、堀部は主君の屈辱を晴らすため仇討ちの決行を強硬に主張する。

すなわち、お家という組織よりもまずひとりの武士としての名誉を重んじる生き方を体現したのが木村拓哉扮する堀部安兵衛だった。

それは、上川隆也扮する村田課長の死後における身辺警護課内の対立状況にオーバーラップする。

斎藤工扮する高梨が一刻も早くあらぬ汚名を着せられた上川の名誉を取り戻そうとするのに対し、島崎はまず身辺警護課という組織の維持を主張する。

この場合、身辺警護課が「民間」の組織であることもポイントになっている。ドラマ中でも、そのことは警察のSPとの対比で繰り返し強調される。

SPとは違って民間ボディーガードは武器を持たない。つまり、ここでも木村拓哉が演じる島崎は“弱さ”を抱えた存在なのだ。