夏目漱石は小説が下手?「国民作家」の盲点をついた異色の解説本

阿刀田高にインタビュー
阿刀田 高

―本書をガイドにすると、漱石を深読みしたくなります。読者が再読するなら、オススメはどれでしょうか?

本書では各作品を評価して点数をつけていますが、『それから』はとてもレベルが高いです。漱石は、ピンと張り詰めた男女関係を書くのがとても上手い。『それから』の主人公・高等遊民の代助をヒロイン三千代が訪ねてくるシーンの凛として、抑制の利いた描写は出色で、漱石の本領発揮といったところです。

あと、幻想短編集の『夢十夜』。これは作家としての漱石の想像力を堪能できる小品で、楽しく読めますよ。

 

―最後に、同じ作家の目から見て、漱石はどんな人物だったと思いますか?

漱石は、いわゆる「天才」タイプの作家ではなく、「大変努力をしたインテリゲンチャ」だったのだと思います。センスに頼るのではなく、貪欲に知識を吸収し、新しい表現を模索し続けた。

ただ、重い胃潰瘍に苦しみ続けたことと、朝日新聞との契約で新聞小説を書き続けなくてはいけなかったことが、彼の作家としての自由度を下げてしまった気がします。

もう少し気ままに書くことができていたのなら、晩年にもっとすごい作品を残していたような気がして、なんとも惜しい気持ちになりますね。(取材・文/窪木淳子)

『週刊現代』2018年3月24日号より