「持ち家vs賃貸」で賃貸派の人が一番見誤っている大事なこと

寿命100年時代のマネーシフト⑨
加谷 珪一 プロフィール

戦後、10年で物価が200倍近くに上昇した準ハイパーインフレ期は特別として、グラフを見るとほとんどの時代で物価が上がっていることが分かる。

数少ない例外は、インフレ対策から緊縮財政に転じ、激しい物価下落を引き起こした1880年代のいわゆる「松方デフレ」と、大正バブルがはじけ、昭和恐慌が発生した1920年代のみである。

戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の経済顧問であるジョセフ・ドッジ氏が行った緊縮政策であるドッジ・ラインも短期間ではあるがデフレを引き起こした。しかし朝鮮戦争特需が発生したことで、デフレはすぐに解消している。

バブル崩壊後のデフレは物価下落の程度で考えれば、横ばいに近い水準だが、継続した期間は突出している。逆に言えば、25年間もデフレが続いた時代というのは、近代日本の歴史では例がない。これは英国や米国など諸外国も同様であり、30年以上のデフレというのは極めて珍しい現象と思ってよい。

 

インフレを利用して巨万の富を築いた人

グラフの青い線は都市部の地価を示したものだが、記録が残っている1940年代以降、基本的に物価と土地価格は同じような動きを見せている。土地が異常に高騰したバブル経済の時期は、土地価格が物価をはるかに上回っているが、これも例外である。基本的に物価と土地の価格は連動すると考えてよいだろう。

ちなみに戦後のハイパーインフレ期には、土地への集中投資で巨額の財を成した人が続出している。なぜならインフレが進行すると、生活が苦しくなり、日々の生活費を捻出するため不動産をタダ同然で投げ売りする人が出てくるからである。

インフレであるにもかかわらず、不動産を手放す人が増えるので、インフレ初期には値下がりするという点がポイントである。だが、暴落した不動産もやがては物価に合わせて価格が急上昇する。価格が下がったタイミングで不動産を買えた人は、物価上昇分以上の利益を得ることになる。

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ロッキード事件において田中角栄元首相に連座し、「記憶にございません」の名セリフを連発した故・小佐野賢治氏(国際興業グループ創業者、帝国ホテル元会長)も、インフレによる不動産価格の高騰で巨額の財を成した一人である。

小佐野君。これからの時代は現金を持っていても何にもならない。
いいか。これからは土地と株と宝石を買え。
土地は戦争で焼けても残る。地価は必ず上昇する。
(中略)これらは大きな資産となるからな。
大下英治『政商 昭和闇の支配者』より

小佐野氏は、尊敬していた知人のアドバイスに忠実に従い、終戦直後、東急グループ総帥の五島慶太氏から、箱根の不動産を買い取っている。

五島氏は組合対策からどうしても現金を必要としており、若手の実業家としてかわいがっていた小佐野氏にホテルを譲ったのである。この不動産が、のちに資産家としての小佐野氏の象徴にもなった「強羅ホテル」である。

以上の話は、あくまで長期的視点に立った歴史的なものであり、今後、インフレが進むのかは誰にも分からない。

だが100年単位で物事を考えるのであれば、インフレに遭遇する確率は高い。一連の歴史的事実は、頭の片隅に入れておいた方が賢明だろう。