「持ち家vs賃貸」で賃貸派の人が一番見誤っている大事なこと

寿命100年時代のマネーシフト⑨
加谷 珪一 プロフィール

実質的なインフレは始まっている?

現状の日本経済はインフレどころかデフレ・マインド一色という状況であり、日銀が掲げた2%の物価目標はまったく達成できていない。だが足元では、インフレを予感させる事象も増えてきている。もっとも物価に影響を与えそうなのが人手不足である。

日本は人口減少から人手不足が深刻となっており、総務省が発表した1月の完全失業率は2.4%と24年ぶりの低水準であった。マクロ経済的には労働供給が不足すると、どこかのタイミングで、ほぼ確実にインフレを引き起こす。

労働需給と物価(名目賃金)の関係を示すモデルとしてはフィリップス曲線が有名だが、日本のフィリップス曲線を見ると、失業率が2.5%以下で急激に物価が上昇している。今後、人手不足が解消される見込みは少なく、これがコストプッシュ・インフレを引き起こす可能性は無視できないだろう。

 

このところ日本の家計が苦しくなっており、企業は販売数量の低下を懸念して値上げに踏み切れずにいる。だが、食料品などを中心に、同じ値段で内容量が著しく減っていることは、すでに多く人が認識しているはずだ。これは事実上の値上げであり、静かにインフレはスタートしていると考えることもできる。

また不動産の購入を前提に銀行にローンの相談をした人なら分かると思うが、銀行は固定金利の商品をなかなか出してこない。インフレが進んだ場合、固定金利のままでは銀行は大きな損失を抱えてしまう。銀行がやたらと変動金利の商品を勧めてくるのは、今後のインフレを警戒しているからである。

繰り返すが、現時点において日本経済はデフレ基調が強く、インフレを警戒する状況ではない。だが、長い時間軸で見ると、様子はだいぶ変わってくる。

デフレが30年以上続いた例はほとんどない

図は過去130年間における物価と不動産価格の推移を示したグラフである。注意していただきたいのは、グラフが対数表記になっていることである。

日本は国家予算の280倍(名目ベース)という天文学的な金額を太平洋戦争につぎ込み、そのほとんどを日銀による国債直接引き受けで賄った。このため終戦と同時に財政破綻を起こし、準ハイパーインフレともいうべき状況に陥っている。物価の高騰があまりにも激しく、通常のグラフでは物価を表記できないため対数表記とした。

また大正以前においては、消費者物価指数に相当する統計が存在しないことから、この部分については卸売物価指数を使用した。

消費者物価指数についても現在の形式になったのは戦後に入ってからなので、この連続データは学術的に厳密なものとはいえない。だが物価の流れを大まかに把握するという目的であれば、大きな問題は発生しないはずだ。