福島原発事故から7年、復興政策に「異様な変化」が起きている

政府文書を読み解く
山下 祐介 プロフィール

ところがその内容が、2年後の平成28年にはどこかにいってしまうのである。

きっかけは「復興・創生期間」への移行だった。

震災6年目以降の「復興・創生期間」をどのようなものにしていくのかを書き込む、「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」の内容について、当然ながら復興推進委員会は諮問をうけることになるが、基本方針の原案を見てある委員が次のように発言しているのに注目したい。

「骨子案を見ますと、子供という言葉が1か所しか出てこないということで、だんだんこ の会議の中でも子供というキーワードが減ってきている印象を感じております。これは仕 方ない部分なのかなということも感じるのですけれども、今回の福島県を初めとした地域 では、子供たちに健康被害が起きるかもしれない、または起きたという思いが、子育てを している方々にとっての大きな不安であり、また風評被害を呼んでいる部分だと思います。 子供たちの心と体の健康に重要点を置くということをぜひ入れていただきたいと思います」(復興推進委員会(第20回)平成28年1月19日、議事録より)

2ヵ月後の3月11日に発表された「基本方針」は、この発言を受けてであろう、多少の文言は追加された。が、「子ども」にとくに深く言及しないままの内容で閣議決定されている。

私にはどうも「子ども」では票にならないというかたちで、政権が興味を失ったのではないかとそんな気がしてならない。

教育再生実行会議まで組織し、子どもに熱心な安倍政権がなぜこんなふうになっていくのか。

ともかくここからは、中心に位置づけられていた政策でさえ、何かのきっかけがあれば平気で切り捨てられる、そんな政治・行政の極端な力学が生じていることが読み取れよう。

 

被災者のためではないイノベーション・コースト?

さらに別の角度からも分析を続けよう。

こうして、せっかく作成した「『新しい東北』の創造に向けて(提言)」への関心が薄れていくのに対し、それに入れ替わるようにして福島復興の中心の座についたのが、「福島イノベーション・コースト構想」である。

福島イノベーション・コースト構想は、第3次安倍内閣に移る前から動きがはじまり、第3次政権で一気に加速した。

イノベーション・コースト構想とは、要するに今後廃炉を進めていくにあたって、廃炉産業の集積とともに、そこで進めなければならない新技術の確立(とくにロボット技術やエネルギー関連産業)をもって、福島県浜通りの新たな産業の基軸とし、そこで生まれた雇用によって帰還する人々が働ける場を作ろうというものである。

私はこうした夢のような巨大事業には慎重であるべきと考えるが、ともかく事故プラントの管理や廃炉は進めなければならないのだから、最高の技術で絶対に放射能漏れのおきない安全な廃炉技術の確立をここで進めることに異論はない。

そしてそれがこの事故で悲惨な目にあった被災者たちの暮らしの再建に資するのならば。

しかし、そのもととなっている「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会 報告書」(平成26年6月23日、経済産業省)には、次のような気になる文章が織り込まれているのである。

報告書は冒頭でこういう。

「一番ご苦労された地域が、一番幸せになる権利がある」(1頁)

私もそう思う。だが、その次の頁では、いとも簡単にその文言を覆すのである。

「住民の意向調査の結果によれば、震災から3年以上が経過する中で、戻らないとの意向を示している方も多い」

「他方、国際研究産業都市の形成過程では、多くの研究者や関連産業従事者がこの地域において生活することとなる。今後は、新たに移り住んでくる住民を積極的に受け入れ、帰還する住民と一体で、地域の活性化を図っていくことが必要」(2頁)

帰ってこない人(被災者)はもうよい。復興は、帰ってくる人(被災者の一部)と、新しくこの町にやってくる人(被災者ではない人)で、やればよい。ここで言っているのはそういうことだ。

だが復興事業の受益者が、この地域に戻ってくる人・新たに入ってくる人でよいというのなら、それは「一番ご苦労された地域が、一番幸せになる権利がある」とは全く違う話ではないか。

しかも驚いたのは、この構想から約1年後に出された、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会提言」(平成27年7月30日)で、こうした事業の結果として「震災前の人口見通しを上回る回復の可能性」があると言い始めていることである(提言のポイント)。

廃炉・除染作業員による人口増とともに、「夢の持てる地域づくり」によってそれを実現するというのだが、私にはそんなことが起きるとは夢にも思えない。

そして文書を丹念に読めば、震災時の人口よりは減少はするのだが、今後の事業によって流入人口が増えるので、震災前になされていた人口予測よりも減り幅は小さいだろうと、そういう話なのである(「参考資料6 福島12市町村の将来像の検討に資する将来人口見通し(参考試算)」の42頁)。

むろんそれとても私には信じられないのだが、本提言のこの文言は政府にとって大変ありがたいものであったらしく、後の「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」にもしっかりと引用されることになる。

だがイノベーション・コースト構想はまだこれからのものであって、多くの課題をはらみ、決して成功を約束されているものではない。

ここには当然失敗のリスクもあるわけで、人口増どころか、こうした事業が結局は収益をあげられず地域のお荷物になる可能性の方が高いのではなかろうか。

政府もそうした危険性をわかっているはずなのに、なぜそれをこうも無視した文章が書けるのか。