実はこんなにツラくて残酷「医者の人事異動」の世界を覗いてみたら…

覆面ドクターのないしょ話 第7回
佐々木 次郎 プロフィール

「越後湯沢あたりで待機しててよ」

「もしもし、山下君、私だ」

「あっ、石田教授」

「来月第二水曜日、昼にバレーボールの試合があるから出て来てくれ」

「わ……かりました」

「去年はありがとう。今年は宮本内科が相手なんだ。内科のヤツらには負けられんっ! 詳しくは医局長から聞いてくれ」

その夜、医局長に電話で相談する。

「医局長、私が行かなきゃダメなんでしょうか?」

「どうして?」

「何しろ遠いもので……新潟ですから」

「教授命令だぞ。一つ頼むよ」

「まぁ、有休取れば済む話ですけど」

「助かるなぁ。東京で一杯飲もうよ。よろしくね」

そう。山下先生は新潟に派遣中だった。 

 

そして出発の朝。空を眺めると、今にも泣き出しそうな空模様。「泣きたいのはこっちだぜ」と思いながら医局長に電話する。

「これから新潟出るんですけど、今日バレーやるんですか? 雨降りそうですけど」

「わかんないなぁ」

「ボクはどうすれば……?」

「越後湯沢あたりで待機しててよ」

「えーっ!?」

「温泉にでもつかってさ」

「そんな他人事(ひとごと)だと思って……」

「後で連絡するから……(ガチャ)」

もしバレーボールが得意でなければ、こんなことには……。

新幹線で新潟を出発したものの、予想通りその日は午前中から雨が降ってきた。東京でもどしゃぶりらしい。ところが医局長からは何の連絡もない。山下先生はイライラしながら医局長に再度電話した。

「あのう、今日の試合は?」

「あっ、ごめん、忘れてた。中止」

「ちゅ、中止って……じゃ、ボクはどうすれば…」

「今、どこ?」

「越後湯沢です」

「帰っていいよ」

「そんな~! 宮本内科に頼んで雨天決行しましょうよ」

「無理だな」

「そこを何とか……有休取っちゃったんですよ」

「教授も『帰っていい』って言ってたし。用ないから」

「東京行きますよ。夕方どこかで一杯飲りませんか?」

「ごめん、俺、忙しいんだ。じゃ」

「ちょっと待っ……この間飲もうって……医局長、医局長…」

越後湯沢の駅に一人たたずむ山下先生。

「あぁ、マジで温泉にでも入ってくか~」