画/おおさわゆう

実はこんなにツラくて残酷「医者の人事異動」の世界を覗いてみたら…

覆面ドクターのないしょ話 第7回
春、人事異動の季節である。出世、左遷、転勤……どんな運命が待っているのか、落ち着かない時期だ。お医者さんにとっては人事異動なんて無縁なのかと思ったら、勤務医の場合は、サラリーマン以上に厳しい運命に翻弄されることもあるようで……。

異動を辞退したら、いきなりクビ宣告!

人事異動には悲喜こもごもの物語がある。読者の皆様もそうなのではないでしょうか?

大学病院の本院とは、会社でたとえれば本社に相当する。

支社や傘下の会社が、分院または派遣(関連)病院と考えればわかりやすいだろうか?

分院や派遣病院が同じ都道府県内にある場合もあれば、他県にある場合もある。極端な場合、本院が東京都にあり、派遣病院が北海道にある大学もある。

本院・分院間の異動の場合、たいした手続きはいらない。職員課に上司が書類を一枚出すだけだ。

「来週から異動だよ。よろしくね」などと、教授や医局長から気軽に言い渡される。

隣接する県への異動は通勤圏内と考えられがちだが、交通の便が悪ければ引っ越さなければならない。

一方、公立病院に異動する場合は、約1ヵ月以上前から異動の通知がある。

公立病院に異動=公務員になるわけだから、公的手続きに時間を要する。これは医者特有の人事異動かもしれない。あるときは大学病院の職員、またあるときは民間人、そしてまたある時は公務員……まさに七変化。

ところが、私どもは異動の度に一旦退職扱いにされている。このため厚生年金では不利な年金給付を強いられている。悲しい……。

国立病院は給料が安い。当然医局員に人気がない。それに比べ、同じ公立でも県立病院や市立病院は給料が良く、手当ても厚い。

外科系のある科に血も涙もない教授がいた。

 

他大学の傘下にあった国立病院部長のポストが空席になった。その教授が他大学を抑え、がむしゃらにそのポストをもぎ取った。部下の誰かを部長として派遣しなければならない。そして私の親しい先輩にお鉢が回ってきた。

先輩には家族がいて、マンションのローンもたくさん残っていた。いくら部長職でも、給料が安い国立病院には行きたくなかった。

先輩が教授室に呼ばれた。

「部長として、君に行ってもらいたい」

「そのお話、できれば辞退させていただきたいのですが……」

「何だと? もう一度言ってみろ!」

「できれば辞退を……」

「お前、明日からもう来なくていいぞ」

いきなりクビ?

「ま、待ってください。いか……行かせていただきます」

先輩にはまだ大学でのポストに未練があったらしい。

「佐々木、俺、やっとドズ(Doz=講師)になったんだよ。できればAP(准教授)くらいまではなりたいんだ。断ったら昇進ムリだろ? しょうがないんだよ」先輩は断腸の思いで国立病院へ赴任した。

明日どうなるなかわからないのが勤務医の運命

その頃、私の所属していた医局でも派遣病院に欠員が生じた。中堅医師を急きょ3ヵ月間だけ派遣してほしいという。公立病院だったので、手続きを急いだ。ところが医局を見渡しても、派遣できそうな医者がいない。

「A君は……若すぎるからダメ。Bさん(女医)は……妊娠発覚だからムリ。来月結婚式なのに、内科のあのダンナ、タネの仕込み早かったなぁ。他には……まさか俺?」

というわけで、この佐々木次郎が地方の病院に急きょ派遣されたのである。

二つ隣の県だったが、東京から特急に乗れば1時間半ほどで行ける病院だった。

わずか3カ月の暫定人事だったので、家族はついて来なかった(泣)。週3回病院の官舎に泊まり、他の日は自宅に帰った。私は週の半分を「特急通勤」していたにもかかわらず、交通費が支給されなかった。

職員課の人はこう言った。

「当院の職員は地元の官舎に住んでいただくのが原則です。だから東京からの交通費は支給できません」

何て病院だっ!