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『4522敗の記憶』スピンオフ『2011年のナイン』連載開始!

序章"嫌がらせのドラフト"と呼ばれて①

2013年に発売されベイスターズファンのみならずすべてのプロ野球ファンの胸を打った野球ノンフィクションの金字塔『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』。プロ野球史上最も敗戦を重ねたベイスターズが、泥沼の中から熱く立ち上がるまでを描いたこの作品のスピンオフ連載が待望のスタート。「2011年のナイン」それは暗黒時代、史上最弱と呼ばれ、身売り、本拠地移転、球団解散などが噂されたあの秋。どん底の中に生み落とされた高校生たちの7年間の物語――。

風前の灯

2018年のプロ野球が間もなく開幕する。
 
今年のセ・リーグ。下馬評が高いのは前年のペナントを圧倒的な力で制した広島東洋カープ。そして19年ぶりに日本シリーズに進出した横浜DeNAベイスターズの評判も上々である。

ラミレス監督は「勝利は我らの中にある」と言い、若い選手たちが躍動するチームを開幕前から多くのメディアが特集する。装いも新たになった横浜スタジアムはチケットを売り出せば完売。横浜の町はユニフォームを着る人たちの姿だけでなく、あちらこちらでベイスターズのかけらを見つけられるようになった。

圧倒的な最下位を独走し、多くの人にそっぽを向かれていた数年前を思い起こせば、この盛り上がりは奇跡みたいなもんだと思っている。「優勝を狙える」と本気で言われるチームになったこと、街に人々にここまで愛されるチームになったこと。「継承と革新」を打ち出し、改革の旗手としてタクトを揮ったDeNAの功績は計り知れないものではあるが、そこには様々な人たちの“変えなければいけない”という思いがあったことを忘れてはならない。

“The Darkest Hour Is Just Before The Dawn”

暗闇は夜明け前が一番暗い、なんて言葉をよく耳にする。

横浜ベイスターズでいえば2011年がそれに該当するのだろう。

あの当時、横浜ベイスターズは先の見えない真っ暗な闇の中にいた。

暗闇の中でも最も深くて暗い暗い闇の底の底。そんな時に彼らはプロ野球選手としての生を受けた。

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2011年10月27日。

東京・グランドプリンスホテル新高輪。同所で行われるプロ野球ドラフト会議に参加していた横浜ベイスターズは、円卓に加地隆雄球団社長、佐藤貞二常務取締役、堀井恒雄編成部専任部長ら球団首脳が列席。その円卓を囲むメンバーの中には、本来居るべきはずの尾花髙雄監督の姿は見えなかった。

翻ること5日前の東京ドーム。

シーズン最終戦を戦っていたベイスターズは9回表まで期待の若手右腕・国吉佑樹の好投で2対1とリード。しかし、最終回に守護神・山口俊が電光石火でノーアウト満塁のピンチを作ると、長野久義に代打逆転サヨナラ満塁本塁打を浴びてしまう。

シーズン86敗目。首位から27.5ゲーム差となるぶっちぎりの最下位確定となるこれ以上ない劇的な幕切れ。

試合後、佐藤貞二常務は「監督・一軍コーチは休養です」と発表する。指揮官である尾花監督は選手を前に「全責任は私にある」と毅然と話し、3年契約の最終年を残したまま、処刑待ちともいえる蟄居閉門を甘んじて受け入れた。

横浜ベイスターズ。その命運は風前の灯火だった。

日本一となった栄光の98年は遠い過去。21世紀に入ってから11年間で8度の最下位。特に08年からは3年連続90敗、4年連続勝率3割台という屈辱的な敗戦に塗れてしまうと、負けを続けるチームからは次々とスター選手が去り、球場には閑古鳥が鳴いた。

毎年20億円とも言われる赤字を抱えていたベイスターズの親会社であるTBSホールディングスは、数年前から球団売却の相手を探っていると度々報じられていた。前年の2010年秋には実際に住宅設備大手の住生活グループとの球団売却交渉がまとまり掛けるも直前で破談。今日に到るまで決裂の原因こそ明らかにされていないが、横浜から静岡・新潟などへ本拠地移転を画策していた住生活グループと、それを認めないベイスターズ側の折り合いがつかなかったのが最大の理由と言われている。

結局、翌2011年もTBSが球団を保有しながら再び球団売却先を探すことになった。明らかに“参ったぞこりゃ“という顔をしながら「オーナー企業として引き続き力を尽くします」と言ってくれたTBS社長に感謝しつつはじまった2011年シーズン。「アナライジングベースボール(分析野球)」を打ち出すも踊らないチームに業を煮やした2年目の尾花監督は「オープン戦も全部勝ちに行く」と高らかに宣言するも全力の最下位に終わり、シーズン予想は解説者113人中101人が最下位を予想。なにくそと奮起することもなく、そのシーズンも何事もなかったかのように最下位に沈みっぱなしで終えた。

秋の声を聞く頃、球団売却騒動は再び熱を帯びることとなる。神奈川では知られた家電量販店の「ノジマ」。さらには「京浜急行電鉄」「ミツウロコ」などの地元関連企業が集まった「横浜連合」なんて団体の名が新親会社の候補として浮かんでは消えていった。このドラフトを迎える時点で最有力候補となっていたのが、携帯ゲーム「Mobage(モバゲー)」を運営する株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)である。もはや球団売却の正式合意も間近として報じられており、スポーツ紙上では携帯電話がデザインされたモバゲーベイスターズのユニフォームを合成で着せられた2年目の筒香嘉智が掲載されていた。