東日本大震災で流された大量の「戸籍」が鳴らす警鐘

世界に冠たる戸籍制度はあまりに脆い…
井戸 まさえ プロフィール

公文書大量消滅リスクと防止策

戸籍再製が完了したのは5月7日。災害の規模からすると奇跡だった。

大混乱の中で戸籍業務を遂行できたのは南三陸町には10年以上の経験を持つ戸籍担当者が複数いたこともひとつの要因である。

もしも、新人の戸籍係や別の部署の者が当たらなければならない状況だったらば、事態は相当に混乱していたことだろう。

戸籍はシステムの入力や証明発行だけであれば、それまで経験がなくとも対応できるが、実は平常時でも、経験とそれによる判断が求められる場面が多数ある。災害発生時にはなおさら冷静な判断が必要なのだ。後継者の育成が必要な分野でもある。

南三陸町の戸籍は再製することができた。しかしこれまで培って来た志津川町、歌津町の戸籍の歴史(資料)が全て消滅したことを思うと、公文書管理という点からも今回の震災の教訓は生かされなければならない。

 

戸籍の保管が十分なバックアップ体制の上にはなく、セキュリティの上でも問題があるのだ。

震災で露呈した戸籍保管状況の不備不足については、管轄法務局に年に一度副本のDATテープを送るという形から、戸籍副本データ管理システムが2013年9月から開始され、異動入力したデータがその日のうちに全国2ヵ所のデータセンターに送信されることになった。

データ消滅を免れる方策として、かなりの進歩がみえるものの、それだけで十分とは到底思えない。

〔PHOTO〕gettyimages

ある日、誰もが無戸籍になりうる

以上、見て来たように、現在の国民登録制度である戸籍は、戸籍業務のベテランの力を持ってしてでも解決がつかないケースがたびたび出てくるほどに複雑、煩雑な登録システムになってしまっている。

一方で管理状態は脆弱で、サイバー攻撃、戸籍の偽装、ありとあらゆる混乱を巻き起こすことは比較的簡単に可能となっていることを、未曾有の災害の教訓として、私たち国民は知らなければならない。

佐藤さんが言うように、今の日本の登録制度では「戸籍がなければ、人の営みも、行政の仕事も一気に立ち行かなく」なる。

しかし、これだけ簡単に戸籍が消えるという現実は、国民誰もが「ある日突然無戸籍になる」ということを、自覚しなければならないということでもある。

その現状に目を背け、「世界に冠たる戸籍制度」と胸を張っていると、思わぬ落とし穴に落ちる。

それは単に制度の問題だけでなく、「自らの記録」を自身では持たず、管理せず、行政に、国に依存して大丈夫な時代ではすでになくなっているということをも端的に示しているとも言えるのだ。

多大な犠牲の上に震災が残した教訓を、私たちはもっと真剣に受けとめなければならない。