なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!
原人ホモ・エレクトスは世界に広がる
前回に引き続き、海部陽介さんに、大きく俯瞰した人類の進化史を聞いていこう。
最初の原人、ホモ・ハビリスがアフリカにとどまっていたのに対して、世界に飛び出した、つまり出アフリカを果たした原人がいる。ホモ・エレクトスだ。
アフリカでも化石が確認されており、遠くユーラシア大陸を旅して、東アジア(北京原人)や東南アジア島嶼部(ジャワ原人)に至るまで広域に分布した。百数十万年にわたって存続した息の長い人類でもある。
ぼくたちはこの連載で、ジャワ島に住んでいたホモ・エレクトス、つまりジャワ原人のことをずっと考えてきた。最初は、人類と類人猿の間のミッシング・リンクとして登場した、ずいぶん「原始的」な印象だったと思う。
しかし、どうだろう。こうやって、初期の猿人から辿ってくると、逆にずいぶん、現生人類に近づいた進歩的な人類のように思えてこないだろうか。
「ホモ・エレクトスは、脳サイズがだんだん大きくなって現代人の3分の2程度にまでになりますし、体も大きく、脚も長くなって、効率的な二足歩行ができたと考えられています。つまり、行動範囲が広くなったのだろうということですね。アフリカから出て、ユーラシア大陸の東側までやってきた最初の人類ですから。ジャワ原人の場合、身長が170センチ以上になったとされています」
ホモ・エレクトスの中で、いちばん多く化石が発掘されており、長期の歴史が追えるのは、間違いなくジャワ原人だ。彼らは、最後期には脳容量が1200ccほどになっていたそうで、現生人類の平均1400ccと比べてもかなり肉薄してきたといえる。
身長もかなり高く、160~170センチほど。サンギランの博物館などで見た古い復元では、身長150センチくらいで、かなり小柄にされていたけれど、あれはまさに思い込みによる「想像的な復元」だったのだ。
なお、科博の上野本館の展示にいる原人は、アフリカ・ケニアのトゥルカナ湖畔で見つかった150万年前の少年「トゥルカナ・ボーイ」だ。
年齢は現代人でいえば11歳くらいだといわれている。「現代に連れてこられて驚いているが、少年らしく少し突っ張っている」という設定で復元されている。この少年の身長も165センチほどあって、びっくりさせられる。現生人類の子でも、11歳でこの身長はかなり高い部類だ。
注釈をしておくと、初期の東アフリカのホモ・エレクトスを、ホモ・エルガスターという別種とする見解がある。科博の展示の表示でも両方書かれているところがあるが、これについては深入りしない。
さてさて。ホモ・エレクトスの代表的な地域個体群としてとらえうるジャワ原人については、これまでいくつも頭骨を見てきた。この連載の主たる関心のひとつだから、主だったものは写真も掲載してきた。あらためて、その特徴を考えておこう。
「発達した眼窩上隆起や、厚く頑丈な頭骨も、原人の特徴です。頭骨が頑丈化しているんですよね。これ、結構、勘違いしている人が多いんですが、人類は古ければ古いほどゴツいというわけじゃないんです。猿人やホモ・ハビリスの頭って、ジャワ原人に比べると華奢なんです。そのかわり、咀嚼器官、歯や顎は昔のほうが大きいんですが」
頭は膨らみ、丸みを帯びて、頑丈になる。咀嚼器官は縮退して、引っ込んでいく。人類の頭と顔の変化を、700万年分を1分くらいに圧縮してCG動画をつくったら、時間とともにぺったんこの頭が丸く大きく膨らみ、一方で顎が小さくなって、斜めに突きだしていた顔がしゅーっと引っ込んでいく動きが同時に見られるだろう。
これらは人類の進化に共通する変化だ。ジャワ原人も、忠実に、その流れの中にいる。
一方で、眼窩上隆起は、原人、とくに、ホモ・エレクトスで顕著にあらわれたものだ。ぼくたち現生人類は、そんなでっぱりを目の上に持っていたりはしない。人類共通の進化と、特殊化が同時に起きている。
「人類共通の進化」と「特殊化」というのは、人類学の大きなテーマだ。ジャワ原人の頭骨から、その際立った具体例を、それこそアマチュアが少し説明を受ければ理解できるレベルで見ることができるのである。