ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう第15回:人類進化を俯瞰する

彼らはなぜ滅んでしまったのか?
川端 裕人 プロフィール

猿人

「続いて、猿人、と呼ばれるグループ。より地上性が強くなり、直立二足歩行をしていました。年代や地域が異なるさまざまな種類がいましたが、分布としてはアフリカだけに限られていました。」

「270万年ほど前に、非頑丈型猿人、頑丈型猿人という、2つの系統に分かれたようです。そのうち、非頑丈型猿人の一部で石器を使いはじめた種類もいます」

猿人の代表格は、いわゆるアウストラロピテクス属だろう。これは歴史の教科書にも出てくるという意味では、ジャワ原人(ホモ・エレクトス)級の有名な人類だ。そのわりには、頭に刻み込まれるインパクトは薄くて、人類史に興味のある人でないとなかなか覚えていない気もするのだが。

科博の上野本館には、アウストラロピテクス・アファレンシスの有名な標本「ルーシー」の化石のレプリカと復元像が、並べて展示されている。復元コンセプトは「突然、現代に連れてこられて、非常に驚いている」さまをあらわしたというとてもおちゃめなものだ。なお、身長は110センチくらい、脳容積は約400cc級。


拡大画像表示ルーシーの復元と骨格標本(提供/国立科学博物館

一部の非頑丈型猿人は石器を使ったことがわかっており、その点でもますます人類らしさが増している。

一方、頑丈型猿人は、頭骨に「とさか」のような出っ張りがあったり、頭が横にぐわんと広がっていたり、かなり異形で、特殊化が極まった人類という印象だが、実は非頑丈型の猿人よりも、ずっと長く生き延びた。この姿には、すぐれて適応的な意味があったのだろう。


拡大画像表示頑丈型猿人の頭骨

拡大画像表示頑丈型猿人の復元(チューリッヒ大学人類学博物館の展示にて、筆者写す)

原人はどんどん進化する

「およそ200万年くらい前になりますと、やはりアフリカで、原人が登場します。最初の原人ホモ・ハビリスは、猿人よりも少し脳容積が大きく、歯や顎が縮小した人類でした。石器への依存度が高く、肉食をよくするなど、文化・行動面でも猿人とは違っていました」

さあ、いよいよ原人の登場だ。ホモ・ハビリスというのが、その最初期の原人らしい。

ここで、おやっ、と思う人は多いだろう。生き物の命名で、いわゆる学術的な場では、いわゆる二名法が使われる。種の名前だけでなく、その上の分類単位である属も一緒に表記する。

たとえば、ルーシーはアウストラロピテクス・アファレンシスで、この場合、アウストラロピテクスは属の名。アファレンシスは種小名と呼ばれる。ラミダス猿人なら、アルディピテクス・ラミダスだ。

つまり、初期の猿人猿人のところで議論したのは、アウストラロピテクス属や、アルディピテクス属という人類だった。そして、ホモ・ハビリスは、ホモ属だ。ここで注目すべきは、「ホモ」とは、現生人類、ホモ・サピエンスについている属の名前と同じだということだ!

「ホモ・ハビリスは、最初のホモ属(ヒト属)とされているんです。猿人は、初期のものも後期のものも脳容積があまり変化していないのですが、ホモ・ハビリスが一歩を踏み出し、それ以降は現生人類に至るまで、時代とともに脳容積がどんどん増大しています。咀嚼器官の縮小も、ほぼ一貫しています」

ホモ・ハビリスの脳容積自体は、600ccを超えるくらいで、大きなものでも800ccを超えることはなかった。身体も猿人よりは大きいが、それほど大柄というほどではない。

しかし、そこから先の「伸びしろ」がものすごかった。ホモ・ハビリス以降の人類の脳容積の増加については、図をみていただくととてもわかりやすい。

猿人が、初期のアウストラロピテクス属から、後期のパラントロプス属(頑丈型原人)まで、ほとんど脳容積を増加させていない(微増)のに対して、ホモ・ハビリス以降は、急増していくのだ。


拡大画像表示人類の進化と脳容積の変化

また、ホモ・ハビリス以降の人類は、脳容積だけなく、他の指標もどんどん「現代的」になっていく。

ボディサイズは大きくなっていくし、咀嚼器官の縮小も進む。咀嚼器官については、動物園に行ったときに、猿と自分(あるいは同行者)の横顔を比べてみるととてもわかりやすい。サルは額から顎にかけて「斜め」になっている。

つまり顎が突き出している。しかし、ぼくたち現生人類は顎が小さいので、額から下がすとんと垂直に落ちこむように平らだ。実際に見ると一目瞭然だ。

また、ホモ・ハビリスが、石器を大いに使って暮らしていたこともはっきりとわかっている。そもそも、ホモ・ハビリスの名は、「器用な人」という意味だ。

ホモ・ハビリスは、さまざまな意味で、現生人類の方向へと足を踏み出した。以降、人類は進化のスピードをぐんと上げる。(次回へ続く)

監修 海部 陽介かいふ ようすけ

人類進化学者 国立科学博物館人類史研究グループ長

1969年東京都生まれ。東京大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程中退。理学博士。1995年より国立科学博物館に勤務し、現在は人類史研究グループ長。「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」代表。第9回(平成24年度)日本学術振興会賞。化石などを通して約200万年にわたるアジアの人類史を研究し、ジャワ原人、フローレス原人などの研究で業績をあげてきた。アジアへのホモ・サピエンスの拡散についての、欧米の定説に疑問を抱き、これまでグローバルに結び付けて考えられてこなかった日本の豊富な遺跡資料を再検討。著書『日本人はどこから来たのか?』(文藝春秋)。