「足を切り落としたい…」自ら障害者になることを望む人々の実態

「身体完全同一性障害」という病
美馬 達哉 プロフィール

「望ましい身体」という謎

脳内の身体イメージと実際の身体のずれが病を引き起こしているとすれば、その苦しみを取り除くにはそのずれを埋める治療が必要となるだろう。

一つの方法は、脳内のイメージをリハビリテーションのような治療で実際の身体の姿に合わせて作り替えることだ。これは幻肢痛ではすでに試みられている。

もう一つの方法は、実際の身体を脳内の身体イメージに合うように外科手術で改造することだ。

BIIDの人々が求めているのはこちらの解決法である。

 

実際にドキュメンタリーに登場する人々は、四肢を切断できたことに満足して、その後は安らいだ生活を送っている。

とはいえ、脳内の身体イメージが「障害者」だから、それに合わせて実際の身体をわざと障害者にしてしまう「治療」には、どんなに当事者である本人が満足していたとしても、多くの人が倫理的な戸惑いを感じてしまう。

〔PHOTO〕iStock

だが、身体の改造が真っ当な治療として認められている状態がある。

それは、性的マイノリティやLGBTのような多様性(ダイバーシティ)の一つのタイプである「性同一性障害」だ。

ココロの性とカラダの性が一致しないとき、ココロの性に合うように身体を改造して性別変更することは医学的治療と認められている。

ココロの性つまり脳内の身体の性を転換させようとするのは、もし可能だとしても「洗脳」や人格改造のような人権侵害とも感じられる。

その違いを生み出しているのは、四肢の欠損などの障害は望ましくないという身体のあり方だという価値観の存在だろう。

障害者になりたいと望むBIIDの人々がいることで、そうした価値観が差別的な優越感なのではないかと揺さぶられる。

「望ましい身体」とは何か――これは実に難しい問いなのだ。