「足を切り落としたい…」自ら障害者になることを望む人々の実態

「身体完全同一性障害」という病
美馬 達哉 プロフィール

だが、どんなに病院に頼み込んでも、そんな切断手術を喜んでしてくれる外科医はいない。

それどころか、奇妙な訴えの精神疾患として扱われることも多い。

精神科医を受診しても、足がついていることがストレスであることを除けば、とくに精神的不調や悩みがあるわけではない。

 

どうやって切り落とすのか

では、BIIDの人々はどうやって自分の足をお払い箱にするのだろうか。

ドキュメンタリーに登場するバズ氏は、スーパーでドライアイスを大量に買ってきてバケツに詰め込んで、不用な足をバケツに突っ込んで、半日かけて凍らせたという。

痛みはあるようだが、冷たさによって感覚は麻痺するらしい。

凍傷になった頃合いを見計らって救急病院に駆け込んで切断手術を受けたという。

救急医はなんとか治療しようとしたが、自分の意志でわざと凍傷にしたのだし、切断手術してくれなければ同じことを繰り返す、と本人が説明してやっと凍傷の治療ではなく切断手術をした。

また、別の登場人物は、いかにもアメリカらしく銃で自分の足を撃って、暴発の事故に遭ったと説明して、救急病院で切断してもらったという。

いずれにせよ命がけだ。

逆に言えば、奇妙に聞こえるだろうが、「五体満足」な身体であることによって生じる苦しみがそれだけ強いということだ。

〔PHOTO〕iStock

身体イメージが異常になった病

もともと、1970年代に初めて報告されたとき、BIIDは、手や足を切り落とすことで興奮を感じたり、手や足の欠損した障害者だけに魅力を感じたりする性的倒錯の一種だと考えられていた(アポテムノフィリア、四肢欠損性愛)。

だが、現在では人間が脳内でカラダをどう感じているか(身体イメージ)が異常になった病だと考えられている。

それがわかるきっかけになったのは「幻肢」という現象だ。事故や外科治療のために手足を切断された人の一部は、存在しないはずの手足がまだ存在している感覚を持っていたり、存在しない手足に痛みを感じたりする。痛みがある場合には「幻肢痛」と呼ばれる。

こうした幻肢は、実際に存在する身体の障害の状態と脳内の身体イメージとがずれてしまった結果と考えられている。実際の身体と身体イメージの間にずれが、不快や痛みとして感じられるようだ。

おわかりの通り、この幻肢はBIIDとちょうど反対の状態である。

そうした人々の場合は、原因不明だが脳内の身体イメージが四肢欠損の障害者の姿となっているにもかかわらず実際には「正常」な身体を持っているため、そのずれを不快と感じていることになる。