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世界を動かした人類史上最悪の「偽書」。なぜ人は信じるのか

フェイクニュースは今も昔も…
中川 右介 プロフィール

人類史上最悪の偽書

ナチスのドイツのユダヤ人虐殺にも、一冊の偽書が大きな役割をはたしている。

「ユダヤ人が世界制服を企むための会議の議事録」として世に出た『シオン賢者の議定書』は、ナチスがこれを拡散させ、ユダヤ人弾圧を正当化したことで、ホロコーストにつながった、「史上最悪の偽書」とも言える。

ヒトラーは、『シオン賢者の議定書』を、「中身が正しいかどうかどうでもいい」としながら、広め、反ユダヤ感情を煽るのに利用した。

ヒトラー本人は『シオン賢者の議定書』を信用していたわけではないが、反ユダヤに利用できるのなら、どんどん利用しろと、指示したのである。

ナチスは、オカルト好きな集団でもあったので、ほかにも『秘密の教義』『ウラ・リンダ年代記』などの偽書にも、飛びついている。

 

日本の「超古代史」もの

日本の「古史古伝」「超古代史」ものは、左翼的な人ほど信じる傾向がある。

反天皇制、反中央の立場の人たちは日頃から、『日本書紀』『古事記』は真実の歴史書ではなく、現在の天皇家の祖先の都合のいいように書かれたものだと主張しているので、『日本書紀』『古事記』が書かれる前に存在していた「歴史書」とか、『日本書記』とは別のことが書かれている「古代の記録」に、飛びついてしまう。

なるほど、『古事記』『日本書紀』にしても、最初の部分は「神話」であり、初代天皇とされる神武天皇から何代かまでは実在性が怪しいというのが、現在の定説だ。

つまり『古事記』も『日本書紀』も「歴史書」としては「怪しい本」なのだ。

だからといって、より荒唐無稽な『竹内文献』や『東日流外三郡誌』こそが真実の歴史書だとも思えないのだが、「天皇家の歴史」以外の歴史があったという興奮で、理性を喪ってしまう人は、これを信じてしまう。

ひとは信じたいことを信じる

宇宙人が出てくる小説を読んで、「現実にはありえない」と怒る人はいないだろう。

だが、もし「私は空飛ぶ円盤に乗ってやって来た宇宙人と遭遇し、その円盤に乗せてもらった」と真面目に言う人がいて、その人物の「手記」が本になったとしたら……。

いまなら、それを「事実」だと思う人は少ないと思うが、50年近く前は、そういう本は、真面目な本の装いで出ていて、少年たちは、それを「事実」だと思いこんでいた。私が小学校高学年から中学生だった、1970年代前半の話である。

なかでも有名なのが、アメリカのジョージ・アダムスキーなる人物による、『空飛ぶ円盤実見記』『空飛ぶ円盤同乗記』『空飛ぶ円盤の真相』といった本だ。

いまとなってはフィクションというか妄想なのだが、「衝撃の事実」と謳われて出されていたので、当時の中学生男子は夢中なってしまったのだ。

同じ頃、失われた大陸・ムー大陸も話題になったし、さらにマニアックなものとして、「地球空洞説」というのもあった。私たちが暮らしている大地の裏側にあたる空間には、別の人類が暮らしていて高度な文明があり、UFOはその地球の内側世界の人間の乗り物だというのだ。

UFOが月の裏側にある宇宙人の基地から来るのか、北極にある地球内部への空洞の出入り口から来るのかと、雨の日の昼休みなど、クラスメートたちと真剣に論じあったものだ。

すでにアポロ11号が月面に着陸している時代だったのに、宇宙はまだ「未知の世界」で、どんな空想・妄想も、「可能性はゼロではない」との理屈で、信じる人がいた。

「この宇宙に、地球以外に知的生命体が存在すると思いますか」と質問されれば、たいがいの人が「いると思う」と答えるだろう。私もそう思う。

しかし、それと、「地球にはすでに空飛ぶ円盤に乗った宇宙人が何回も訪れている」「宇宙人と会ったことがある人がいる」という話は、直結しないはずだ。

だが、そういう僅かな可能性を根拠にして、壮大なウソを作り、信じさせる才能のある人は昔からけっこういたのだ。

ひとが偽書、フェイクニュースを信じるのは、潜在的にでも「そうであってほしい」と思っている内容である場合が多い。「やっぱり、そうだったのか」となって、信じ、それを他人にも伝えたくなる。

自分が信じたくない情報に対しては、「そんなのウソだろう」と思う。

トランプ大統領は、自分ではフェイク情報を発信し、自分を批判する記事はフェイクだと決めつけている。日本の安倍首相にもそういう傾向がある。

政治家のフェイクで流布しやすいのは、実は、その政治家本人の利益になりそうな内容ではない。

「トランプ大統領の隠れた美談」とか、「安倍首相のちょっといい話」といった内容のものは、そんなには拡散しない。

トランプ大統領や安倍首相の支持者も、そういう美談には飛びつかない。むしろ、「政敵にとって不都合な真実」を発信するほうが拡散しやすい。

ひとは、美談よりも失敗、スキャンダルを好むのだ。

そんな心理につけこんで、偽書、フェイクニュースはなくならない。

世界を動かした「偽書」の歴史