「フェイクニュース」が流行語になったりして、「フェイク」はいかにも新しい現象のようだが、昔から「世の中を騒がせたウソ」というものはあった。
そのときは「ウソ」とは知らず、多くの人が信じてしまい、とんでもないことになった例もある。
そういう例を集めてみたのが、『世界を動かした「偽書」の歴史』(KKベストセラーズ)である。
古今東西の「偽書」こそ、フェイクニュースの元祖ではないか、との思いから、『シオン賢者の議定書』『田中上奏文』『マリー・アントワネットの手紙』『コンスタンティヌスの寄進状』『東方見聞録』『武功夜話』『東日流外三郡誌』『ショスタコーヴィチの証言』『ショパンのラブレター』『伊藤律インタビュー』『ハワード・ヒューズ自伝』『竹内文献』『九鬼文書』『秘密の教義』など29の偽書について書いた。
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絵画における「贋作」は、金儲けを動機とするものがほとんどだ。
有名な画家の、知られざる傑作が見つかったと騒がれ、数年後にそれは贋作と判明した、というパターンだ。
基本的に絵画はオリジナルが1枚しかないので希少性がある。だから、有名な画家の作品は何億円もするので、贋作が作られる土壌がある。
しかし、文字だけの本による偽書は、経済的利益を得ようとして作られたものは、少ない。
自分の主義主張を広めようという目的で作られたものもあり、『竹内文献』『九鬼文書』など宗教団体系の文書は布教目的のものだが、そう簡単には割り切れないところもある。
それを発見したことで自分が有名になりたいという功名心からの偽書もある。
愉快犯のような偽書もあるが、なぜ作ったのか、明確な動機の分からない偽書が多いのだ。
そこが偽書の闇の深さである。
偽書にまつわる事件は、新たに発見された文書が「歴史に隠されていた真実だ」となっていくことが多いが、最初に騙されるのが、その分野の「専門家」だ。
専門家を騙して「本物だ」とのお墨付きをもらえれば、一般の人は「専門家がそう言うんだなら本物だろう」となって、拡散していく。
では、なぜ専門家は、専門家のはずなのに騙されるのか。
専門家は、その分野については知り尽くしている。
そこに「知られざる新事実」が提示されれば、普通は疑ってかかるだろうと思うが、そうでもないらしい。
専門家というのは、「知られざる新事実」を日夜、探求している人でもある。専門家ほど「知られざる新事実」に飢えている人はいないのだ。
そのため、「知られざる新事実」に飛びつく。
いったん信じてしまうと、信じた自分を否定したくないので、ますます深みにはまっていく。
結婚詐欺に騙される人が、最後までその詐欺師を「いい人」「私のことを好きになってくれた人」と思い込みたがるのと似ている。