どんなに美人でも、「コレ」をしない女医は不潔と呼ばれます

覆面ドクターのないしょ話 第6回
佐々木 次郎 プロフィール

手は「清潔」、でもズボンは「不潔」。さて……?


ここで「清潔・不潔」に関わる私の恥ずかしい過去を告白する。あれは新米の頃の話である。

手術の際には、術衣といって手術用のシャツとズボンを履く。医療系ドラマのシーンで、外科医がガウンを脱ぐと、青や紫の半袖シャツとダブダブのズボンを履いているが、あれのことである。

私は、前の日に腹を壊し、腹を締めつけないよう、術衣のズボンのひもを緩めておいた。その日の手術に、私はいてもいなくてもいい第三助手として入っていた。手術が始まって間もなく、腰のあたりに違和感を覚えた。徐々にその違和感は実感に変わり、私は重大な現実問題に直面した。

 

「ズボンがずり落ちてきた……」

ズボンのひもをゆるめておいたのがいけなかった。その時点で、私のズボンは、若者がよくやる腰パンのようにお尻の途中でひっかかっている状態になっていた。

「困ったなぁ……」

そのとき、手術ガウンの下で、次郎のズボンは!?(photo by istock)

手術中、少しずつ少しずつズボンがずり下がっていき、私は手術に集中できなかった。ズボンがそれ以上下がらないよう、立ったままズボンをベッドに押しつけ、必死に重力に抵抗しながら、打開策を模索していた。しかし、努力の甲斐も空しく、手術がクライマックスに達するはるか前に、私のズボンは「完オチ」してしまった。

「どうしよう? まだオペは長いのに……」

私の手は「清潔」なのだから、自分でズボンを引き上げることはできない。もちろんやってもいいのだが、いったん退場のうえ、また一から手を洗って消毒し、別の滅菌ガウンに着替えて別の滅菌手袋を装着し直さなければならない。ただでさえ役立たずの研修医なのに、そんなことをしたら「もう戻ってこなくていい」と先輩たちから言われることは必定だ。

ガウンを着ているので、私のズボンがずり落ちているなんて、誰も想像さえしていなかった。だが実際には、まるで露出狂のおじさんのように、ガウンをめくれば下半身はパンツ一枚の状態になってしまっていた。

手術室のかすかな空気の流れが、私の股下をス~ッと潜り抜けて行った。

「スカートって股がこんなに涼しいんだなぁ」

なんてことを私は不謹慎にも手術中に思いつつ、女性の気持ちが少し理解できた気がした。

「どうする?」

私は悩み続けた。いてもいなくてもいい第三助手だから悩む時間はあった。

「いつやるんだ?……今でしょ!」

林修先生よりはるか昔に私はこの言葉を持っていた。私は意を決して、外回りの看護師さんに頼んだ。

「ガウンの中のズボンを上げてもらえませんか? ボク、『清潔』だからできないんです」

ガウンをまくった看護師さんが叫んだ。

「キャッ! やだ~っ、もぅ! パンツ丸出し! 私にやれって言うの?」

読者の皆さん、想像していただきたい。手術中、私が立ったまま、床にしゃがんだ看護師さんにズボンを上げてもらう光景を。誰がどう見ても怪しい景色だ。彼女はふてくされながらも、私のズボンを上げてくれた。彼女のおかげで危機を脱出した私は、体も心もスッキリして彼女に深謝した。

「本当にありがとう!」

彼女冷たくこう言った。

「もう口聞かない! 最低!」

「ごめんね。でも他に方法がなくて……」

「あのままパンツ一枚で助手やってればよかったじゃない!」

「そういう方法もありなの……?」

人は常に自分の選んだ道が最善の選択だったのかと悩み続ける。私の選択は果たして最善だったのだろうか?