どんなに美人でも、「コレ」をしない女医は不潔と呼ばれます

覆面ドクターのないしょ話 第6回
佐々木 次郎 プロフィール

どんな美人も滅菌されていなければ「不潔」!

女医さんの話に戻ろう。

この日の手術には見学者もいた。新米女医さんの同期の男の医者だった。彼が手術の様子を外から見ようとして前に乗り出した。そこで彼が彼女に何か話かけたのだろう。

「今見えてるの何? マーゲン(胃)?」とでも言ったのだろうか? 急に後ろから話しかけられて、びっくりして振り向いたら、すぐそこに男が立っていた。

「あっ!」
「触っちゃった?……」

この光景を先輩ドクターに見咎められて、冒頭のようなお説教を受けたのである。ちょっと体が触れただけなのに、なぜこの女医さんは「フケツ」になってしまったのか?

 

手術に直接入るスタッフは全員滅菌されたガウンを着て、滅菌された手袋をしている。この格好になったら、滅菌していない物は何一つ触れてはいけない。

滅菌された状態を、医療業界では「清潔」と呼ぶ。滅菌していない物を「不潔」と呼ぶ。

完全に「清潔」な状態の外科医(photo by istock)

手術に参加する者は全員、手術前に手をよく洗って消毒するのだが、菌は完全には落ちていないので、その手はまだ「不潔」ということになる。「不潔」のままでは、患者さんにバイ菌がうつってしまうので、滅菌の手袋で手を覆う。

清潔といえば、どんなに美人であろうと、清潔感あふれる女性であろうと、滅菌はされていない限り、医学的には彼女たちは全員「不潔」ということになる。男性関係がきれいであっても、この場合考慮されない。

「清潔」な状態だったにもかかわらず、「不潔」な状態の外回りの男に触れてしまい、件の女医さんは「不潔」になってしまった。そのまま患者さんを触れたらバイ菌がうつってしまうので、上司から即刻退場を言い渡されたのであった。

前述した通り、ガウンと手袋を装着した「清潔」な状態では、滅菌した物以外は触ってはいけない。

両手は胸の前に挙げたままにし、だらりと手を下げてはいけない。ずり落ちたメガネを触ったり、鼻が痒いからと掻いたりしたら、その時点でアウト!である。汗を拭いてもいけない。

ではどうすればいいのか? そのときは、外回りの看護師さんに頼んで、メガネを持ち上げてもらったり、鼻を掻いてもらったりするのである。汗をかいた場合も看護師さんに拭いてもらう。長時間に及ぶ手術ではお腹も空くので、口の中に飴玉やキャラメルを入れてもらうこともある。