提供:国立科学博物館

ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう 第8回:ジャワ原人とご対面

彼らはなぜ滅んでしまったのか?
かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?

なぜぼくたちだけが生き残ったのか?

人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

「顔がある標本」とのご対面

国立科学博物館の人類史研究グループ長・海部陽介さんのフィールド調査に参加しつつ、その合間に「サンギラン初期人類遺跡」を訪ねている。

世界遺産に認定されるだけあって、ジャワ原人だけではなく当時の環境を復元できるさまざまな動物の化石が発掘されている、世界屈指の「初期人類遺跡」なのである。 そして、発掘された初期人類「ジャワ原人」の中でも、これまた屈指の保存状態を誇る「サンギラン17号」が、ぼくたちを待ち受けていた。

もちろんオリジナルの化石ではなく、キャスト(模型)だ。しかし発掘地で見る化石というのは、キャストであっても、やはり趣がある。

「ジャワ原人では唯一、顔が残っているものですし、上顎と歯も残っています。地元の人が金属の農具で畑を広げていたとき、先が当たったところが破損しているんですが、状態はとてもいいですね」

海部さんがキャストの頭頂部を指さして教えてくれた。たしかに破損しているのが残念だが、「顔がある」というのは、まさに「ご対面」ができるわけで、ぐっと見つめ合うことも可能なのである。やはり別格の標本だ。


拡大画像表示顔があるサンギラン17号頭骨のキャスト(筆者写す)

かくも素晴らしき標本を前にして、ここで海部さんから質問。

「これ、現生人類のホモ・サピエンスと比べて、どんな印象を受けますか」

この時点で、ぼくははっきりいって、超素人である。関心だけは持っているものの、人類化石を見るトレーニングはまったく受けたことがなかった(今もそれほど上達していないかもしれないが)。復元された原人と現代人の区別ならともかく、骨のレベルでの違いというのは正直、よくわかっていなかった。

いかによい標本が目の前にあっても、観察者の素養はいかんともしがたい。とにかく印象レベルで言ってみる。目の前のサンギラン17号は、現生人類ホモ・サピエンスに比べて──

頭がぺっちゃんこなかんじ。

目の上が出っ張ってる。

頬が尖っている。

といったところか。

あとから考えると、悪くない「印象論」だったと思う。「頬が尖っている」は本質的ではなくて、むしろ「顔が傾斜している」といったほうがより正しかったとは思うが。 海部さんも、ふむふむと聞きつつ、隣にある別の標本を指した。

「これ、僕たちがやっているサンブンマチャンから出た最初の頭蓋骨です。それから、ガンドンという場所で出た新しい時代の頭蓋骨もありますね。顔はないけど、この展示だと上からも見られるのでわかりやすいです」


拡大画像表示海部氏らが発掘するサンブンマチャンから最初に出たジャワ原人の頭蓋骨(筆者写す)

拡大画像表示ガンドンから出た新しい時代のジャワ原人の頭蓋骨(筆者写す)

日常的な言葉で「頭蓋」というと「ズガイコツ」であり、顔も含めた頭部全体を指すような気もするが、専門的には脳を収めている容器に相当する「脳頭蓋」と、眼窩(がんか)や鼻や頬や顎などの「顔面頭蓋」に分かれている。

サンブンマチャンの標本は脳頭蓋であり、サンギラン17号は脳頭蓋と顔面頭蓋が両方残っている、というわけだ。

頭の上がぺっちゃんこ、平べったい、という印象はどちらも同じ。現生人類、つまりぼくたちの頭は、もっとまあるい。手のひらでなぞってみればはっきりわかる。

だがジャワ原人のほうは、キュッ、としている。どこが、というと、眼窩の手前、こめかみの上あたり。上から見ると、そのあたりで、きゅっとすぼまっているのだ。

これも今の人類にはない特徴で、すごくわかりやすい。自分の頭を触っても、こめかみの上の部分が、こんなふうにすぼまってはいない。