なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!
自分のこの手と目で、ジャワ原人の化石を見つけてやる!
ジャワ島サンブンマチャン村の発掘現場で、ヒトの歯かもしれない化石を見せてもらったぼくは、にわかに意気込んだ。
しかし、さっきまで使っていたタガネとハンマーが、ない。見回すと、もう誰かが手にとって、地層と向き合っている。みな、我も我もと掘りたがるので、道具は奪い合いになるのだ。厳しい道具争奪戦に敗れて、しばらくぼくは、その日見つかった標本を検分しながらの浪人生活となった。
それはそれで、また楽しい。
村人たちが、三々五々、自分が掘り出した動物の骨を誇らしげにもってくる。スイギュウだのシカだの、彼ら、ジャワ原人が住んでいた環境で一緒に暮らしていた生き物たちが、どんどんやってくる。ひたすら暑い中で、タガネとハンマーの音が音楽のように聞こえてきて、化石が踊り出しそうだ。
昼食の休憩終わりのタイミングで、ぼくはやっと自分の「道具」を取り戻し、発掘に復帰できた。あとは無心に夕方まで地層を剥がした。
結局、ぼく自身は、このときの発掘で人類化石を見つけることはできなかった。石器を作ったときにはがれた剥片かもしれないという微妙な薄い石のほかは、小さな水牛かなにかの骨片が出てきたのみ。しかし、ハンマーのすべての一撃ごとに、この先にあるかもしれない発見を予期して、わくわくし通しだった。
本当に、今、自分がいるここに、いにしえの人類、いわば「はじめ人間」(マンガの「はじめ人間ギャートルズ」は明らかに現生人類ホモ・サピエンスだが)のような人たちがいたと想像するのは、興奮させられることだ。
ぼくは、アジアの人類学の深みにはまりつつある、とそのとき自覚した。いずれ、海部さんと一緒にこのテーマを掘り下げたものを書くだろう、という確信も頭をもたげた。