なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!
蛇行するソロ川のほとり、サンブンマチャン村での発掘作業が進んでいる。
現地で雇われている人たちのモチベーションも高く、ウシ、イノシシ、サイなどの化石を次々と発見した。地面から骨が出てくること自体が楽しくて、夢中になるのはいいのだが、慌てて掘ってしまい化石が割れてしまうこともある。
海部さんは苦笑しつつ、それらを混乱しないように分別し、あらためて掘り方の指導をしていた。なお、割れた標本は、宿に帰ってからその日のうちに接着剤でくっつけておく。
ぼくも、ひたすらタガネをあてて、地層を剥がした。はやる気持ちを抑えつつ慎重にやっているつもりだが、やはり、つい力が入りがちだ。一度、大々的に割りすぎてしまったときには、ひやりとした。もしもそこに大切なものがあったとしても、壊してしまっただろう。まったく、この作業は本当に難しい。
現地の言葉で何かを話しかけられた。
腰の曲がったおばあちゃんが、ぼくが引き剥がした層の中から、小さなものを拾い上げた。
まるで宝物のように、手のひらの上に置いて見せてくれる。まわりの母岩とはちがって、薄く鋭利な印象すらある石のかけらだ。
「これは、ジャワ原人が石器を作ったときの石の破片かもしれませんね」
と海部さんが言った。そして、ジッパーのついたビニール袋にしまい込んだ。
おお、ぼくも、多少は意味のあるものを見つけられたかもしれない。実際は、おばあちゃんに教えてもらったわけだが。
なお、ここで「ジャワ原人の石器」と聞いて、はてな、と思った人は素晴らしい。実は、この時点ではぼくは、その意味をよくわかっていなかった。
原人というのは、その元祖であるホモ・ハビリス(アフリカの原人で、学名は「器用な人」を意味する。ハビリスはhandyという意味)が石器と一緒に発掘されて有名になったように、石器を多用していた人たちだとされる。
最古の石器は330万年前の猿人の時代に出現したが、二百数十万年前頃の原人の時期になるとその出土例が増して、石器の利用が“本格化”してきたことがわかる。しかし、ジャワ原人が使っていた石器は出てこないことになっていて、教科書によっては「なかった」「知られていない」などと書かれている。
「いや、それが、実際には見つかっているんですよ」
と海部さん。
「ただ、まだ研究者がきちんと取り組んでいないだけで、石器自体は出ているし、地元の博物館にも並んでます」
なんと、これは現場にこなければわからない「これから」の研究テーマだったのだ。海部さんのサンブンマチャンの発掘現場でも、石器らしきものがいくつも出ており、今、石器の専門家と一緒に研究を進めているところだという。
ぼくは、しげしげと自分が「見つけた」破片や、発掘現場の仕分けボックスの中にある石器状の石を見た。ぼくには、石器と「石器のような石」を区別する能力はないが、それは発掘チームの大部分を占める村人たちにしても同じこと。「それらしい」ものは、どんどん集められている。中には、刃のように見える部分を持ったものもある。見れば見るほど、石器のような気がしてくるのだが、あくまで素人判断だ。