瀕死だった「国産ウイスキー」が一転、世界に絶賛された理由

冬の時代を越えて
古賀 邦正 プロフィール

ようやく、再び上向きに転じたのは2008年だった。ハイボール人気の再来が、大きなエポックだった。上昇基調は続き、2015年にはテレビドラマ「マッサン」の影響により、大ブームが訪れた。いまや、日本のウイスキーメーカーは15社、蒸留所の数も20余りを数え、“先輩”のアイリッシュやカナディアンをも凌ぐ勢いである。

いまにして思えば、さきに紹介したコンペティションで高評価を受けたジャパニーズたちはみな、厳しい“冬の時代”に造られたものだ。

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ウイスキーの工程は、製麦・仕込み・醗酵・蒸留・貯蔵・ブレンド・後熟と多岐にわたり、原料が製品になるまでには通常、8年から10年、あるいはもっとかかることもある。どんなに市場が冷え込み、先細っていこうと、そうした手間と時間を惜しまずウイスキー造りに真面目に励んだ人たちがいた、その証が数々の受賞であり、世界のウイスキー愛好家からの賞賛だったのだ。

では、ジャパニーズのどこがこれほど高く評価されているのだろうか。

そんなことは「飲めばわかる」と言いたいところだが、そこをもう少し丁寧に説明することが、本稿の目的でもある。

国際コンペティションでジャパニーズが受賞するときの理由として代表的なものは「深い熟成感のある香り」「甘い口あたり」そして「それらすべてにおいて尊敬に値するすばらしいウイスキー」といったところだ。つまりは繊細で、たおやかな日本人の感性が、国際的にも認められたということだろう。

ここで、旨いウイスキーを造るための3大要素をあげるならば、

(1)長期熟成にも耐えられる多彩な個性を持ったニューポット(貯蔵前の原酒)
(2)良質の樽と、貯蔵に最適な環境 
(3)多様な原酒の個性を活かす、ブレンダ―のきめ細やかな感性 

となるだろう(なお、「長期熟成」と書いたが、ウイスキー造りにおいては製造期間の99%を「貯蔵」が占める。途方もない長さなのだ)。

しかし、これは何もジャパニーズウイスキーに限ったことではない。銘酒と呼ばれるウイスキーなら、どこの国の蒸溜所でも、このことを肝に銘じている。

たとえば、「ウイスキーのロールスロイス」ともいわれる「ザ・マッカラン」。スコットランドの北東部スペイサイドの蒸留所で造られるこのスコッチは、熟した果実の香りと芳醇なシェリー香、まろやかでやや苦味のある複雑な味わいをもっており、そこには揺るぎない伝統と自信が感じられる。

 

スコットランドの西方の島、アイラ島南岸の蒸溜所で造られる「ラガヴーリン」は、ヨードと海藻を連想させるピーティーさ(泥炭由来の香り)は強烈だが、それでいてまろやかさを備えていて、ストレートで飲んでも抵抗がない。実に秀逸な品質である。

では、それらの銘酒に伍して世界最高の栄誉に輝きつづけるジャパニーズならではの「まろやかさ」「繊細さ」「バランスのよさ」などの特徴は、どこから来たものなのだろうか。

「ものづくり」の力を発揮

私は、その背景には、そもそも酒に対して日本人がもっている独特の嗜好性があるのではないかと考えている。

日本における酒の起源は定かではないが、弥生時代に大陸から伝えられた黄酒(ホワンチュー)ではないかとも考えられている。これは、「もち米」を原料にして、麦麹や黒麹を用いて発酵させて造る「濁り酒」だった。

ところが日本人はこの酒を、原料を白米に替えて、デンプンの分解力が強い黄麹を発酵に用い、濾過をして磨きをかけ、奈良時代には日本独特の「すみ酒」、すなわち澄みきった日本酒に仕上げてしまったという。繊細で、口あたりよく、バランスのいい酒への嗜好性は、有史以来、受け継がれてきた日本人固有のものなのだ。

そして約100年前、日本人はスコットランドでウイスキー造りの基本を学んだ。ただ学んだだけではなく、その基本を守りながら、独特のジャパニーズウイスキーに仕上げていった。そこには、ひとつひとつの工程における、きめ細かな観察と、労を惜しまぬ工夫があった。